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番外編『愛すべき贈り物』162
割って入った暁を、橘は胡乱気に睨めつけて
「誤解? 君は何を根拠に……」
「俺は、貴方と祥悟くんがどんな話をしているのかは知らない。ただ、祥悟くんの存在が、姉の里沙さんを傷つけたりすることだけはありえねえって思ってる。誰に何を聞かされたのか、はっきり言葉にしてもらえませんかね? でなきゃ、冷静に話し合う余地がないでしょうが」
穏やかだが凄みのある暁の言葉に、橘は押し黙り、暁から目を逸らして祥悟を睨み付けた。
祥悟は片眉をあげて、黙って橘を睨み返す。
「いいだろう。あまりにも酷い話だから、口には出さずにおいてやろうと思っていたが……」
橘はいったん言葉を切って、苦々しい顔をすると
「この男は、よりにもよって、血の繋がった双子の姉に、手を出していたのだ」
重々しく告げられた橘の言葉に、暁と祥悟ははっと息を飲み、目を見開いた。
「信じたくはなかったがな。まだ2人が私の家に同居していた頃から、その忌むべき関係は始まっていたらしい。私の妻が証人だ」
「はっ」
祥悟が遮るように声をあげて、がたっと立ち上がった。
「はぁ~? あんた、何言ってんだよ。バッカじゃねえの?そんなことあるわけねえだろ!」
怒りに任せて橘に詰め寄ろうとする祥悟の腕を、暁が掴む。
「口からでまかせに、ふざけたこと、言ってんじゃねーよ! このくそじじいがっ」
暁に押さえられながら激昴する祥悟を、橘は蔑むような目で見て
「やはり血は争えないな。同じ双子でも、貴様には悪魔の方の血が流れているらしい」
「は? どーゆー意味だよっ」
「言葉通りの意味だよ。貴様は自分の親の素性を知ら……」
「いい加減にしろよ!」
ダンっと床を踏み鳴らし、暁が橘の言葉を遮った。
「……………」
驚いた。思わず飛び上がりかけた。部屋中がビリビリしそうな大音量で暁が怒鳴ったからだ。
橘の理不尽な言い掛かりに、かーっとなって、暁の手を振りほどいで、橘をぶっ飛ばしに行こうとした怒りが、その拍子に一気に霧散した。
それくらい、暁の怒鳴り声は凄まじかったのだ。鼓膜が破れるかと思った……。
……ちょ……っと、なんで、君がそんな、怒ってんのさ?
祥悟はぽかんとして暁に見とれた。声だけじゃない。暁の全身から立ち上る怒りのオーラが、目に見えるような気がする。
「な……なんなのだ、君は」
橘も相当、度肝を抜かれたらしい。さっきまでの威圧的で嫌味ったらしい態度が、露骨に萎縮している。……ざまあみろだ。
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