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番外編『愛すべき贈り物』165
暁の気持ちは嬉しいが、橘との対立は自分自身の問題だ。暁には、紹介してくれた人や事務所の社長の立場もある。これ以上、余計なトラブルに、この優しい男を巻き込むのは……自分のプライドが許さない。
祥悟はそっと深呼吸をして気持ちを切り替えると、暁を押さえつけながら、橘の方に顔を向けた。完全戦闘モードの艶のある笑顔でにっこりと微笑みかけ
「ね。奥さんが何言ってんだか知らないけどさ、そんな嘘っぱち、頭から信じちゃうのってどうなの?」
「嘘ではないさ。私も貴様が、里沙の部屋から深夜に出てくるのを見ているのだ」
……へえ? そっか。あん時、見られてたんだ?
祥悟は艶然と微笑んだまま、片眉をあげて
「うわ。怖いなぁ。あんたストーカーかよ。いっつも里沙のこと、監視してたってわけ? 気持ち悪いよ、橘さん。あんたこそ里沙に良からぬことしようって狙ってたんじゃねえの?」
橘は不敵な笑みで首を振り
「悪あがきの言い掛かりはよしなさい」
「言い掛かりはあんただよ。俺が里沙に手ぇ出すとか、あ~ないない。俺さ、自分の姉抱くとか、そこまで相手に不足してないんだよねぇ。それにさ」
祥悟はくすっと笑って、掴んでいる暁の手をぐいっと引き寄せた。橘を睨み付けていた暁は不意をつかれて、祥悟に抱き寄せられる。
「あんた、気づいてなかった? 俺、もともと女抱くよりは、男に抱かれる側だよ? ねえ、暁くん?」
「へ……?あ、おい……」
祥悟の手が暁の頬をすいっと撫でる。意表を突かれて、暁は思わず上擦った声をあげた。
祥悟は背伸びして、暁の顔に思いっきり自分の顔を寄せながら、橘にちらっと流し目して
「これ、俺のオ・ト・コ。親友じゃなくて恋人、なの。ねぇ?暁くん♡」
言いながら、唖然としている暁に顔を近寄せ、橘に見せつけるように唇を奪った。
……おわっ、ちょっ、待てっ
祥悟に唐突にディープキスされて、暁は息を飲んだ。
……おまっ、突然何しやがる……っ
見開いたままの暁の目に、祥悟の顔越しに、橘と渡会の驚いた表情が映る。
……俺がこいつと恋人?! いやいやいや、ちげーし。俺の仔猫ちゃんは、愛する雅紀だけだっつーの。
首に腕を巻き付かせて、強引に唇を割り舌を差し込もうとする祥悟を、暁は引き剥がそうとした。だが、やはり目を開けたままの祥悟と目が合って、ドキッとする。祥悟はいつもの不遜な眼差しではなく、ひどく哀しそうな目をしていた。頼むから拒絶するなと切実に訴えてくるような……。
…………話、合わせろってことか? ちっ……しょうがねえ。
幸いなことに、この部屋に愛する仔猫ちゃんはいない。
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