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番外編『愛すべき贈り物』166
暁は内心ため息をつくと、祥悟の細い身体をぐいっと抱き寄せた。
目を閉じて祥悟の唇を割り開き、空いた隙間から舌を差し込む。祥悟の身体からふわっと力が抜けた。差し入れた舌に、祥悟の熱い舌が絡みついてくる。
祥悟の濃厚なキスに応えながら、暁はそっと薄目を開けてみた。祥悟は目を閉じて切なげに眉を寄せ、長い睫毛を震わせている。もう1度、橘の様子を窺うと、侮蔑の表情を露骨に浮かべて、首を竦めていた。
……つーか、今の話の流れで、俺とこいつのキス見せつけることに、意味あんのかよ? 祥のやつ、絶対に面白がってんだろ。
ってか、なんであのおっさんは、祥悟が里沙とデキてるなんて突拍子もねえ嘘、信じちまったんだ? もし祥悟の方にその気があったって、あの里沙がんなこと許すわけねーだろ。あー。里沙かこいつに、もうちょっと詳しく話聞いときゃよかったぜ。
さっきの話には、橘と祥悟の2人だけしか知らない、何か裏がありそうだ。祥悟に協力してやりたいのはやまやまだが、相手の手の内が分からなければ、反撃のしようがない。
「いい加減にしなさい。みっともない」
吐き捨てるような橘の声が響いた。祥悟はぴくっと震えて腕を解くと、口づけを止めて暁から離れる。暁は祥悟の身体を抱き締めたまま、橘を睨みつけた。
「くだらん茶番はよせ。貴様がホモなわけがないだろう、祥悟。これまで何回、女とトラブルを起こしているのだ」
祥悟は振り返り、濡れた唇をぺろっと舌で舐めにやりとして
「ふふ。はっきり言ってさ、女はもう懲り懲りなんだよね。ちやほやしたり構ってやんないと拗ねるでしょ。俺って自分がちやほやされたい方だし?」
……あー……。たしかにな。それは納得だぜ。
暁は憮然とした顔のまま、心の中で突っ込みを入れた。
「ってことだから、そんなに怒んないでよ、暁くん。俺、女と浮気なんか絶対にしてないよ」
暁は首を竦めて苦笑いすると
「分かってるよ。ハナからおまえのこと、疑ったりしてねえって。ただ、あんまりふざけたこと、あいつが言い出すからさ、頭に血が上っちまっただけだ」
黙り込み、疑いの眼差しを向けている橘を無視して、2人は見つめ合った。たしかにこれは見え透いた茶番だが、祥悟を貶める気満々の橘の、出鼻を挫く効果はあったかもしれない。
祥悟は潤んだ瞳で暁を見つめ、手をぎゅっと握って
「分かってくれててよかった。俺、暁くんに誤解されんの、一番やだからさ。俺の為に怒ってくれて……ありがと」
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