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番外編『愛すべき贈り物』167
妙に可愛らしい顔で、すりすりと甘えてくる祥悟の演技に、背中がむずむずする。
そういや、こいつとの初めての出会いは、あの女装の夜だ。
……うわぁ。なにこの可愛らしい態度。こいつ、女優になれんだろ。
背中だけじゃなく、顔もむずむずしてきて、暁はぐっと表情を引き締めた。
……つか、いつまでこの茶番劇、続けんだよ。
暁は内心突っ込みつつ、祥悟の身体をぐいっと抱き寄せた。橘の方を振り返り
「ってことだ。橘さん。俺の可愛い恋人に、とんでもねえ言い掛かりは止めてくんねーか」
橘は嫌悪に表情を歪めて、暁と祥悟を冷ややかに見比べると
「話にならんな。くだらないことにこれ以上付き合っている暇はない。渡会。里沙を連れて来てくれ。私は帰るぞ」
微妙な顔つきで黙って3人を見守っていた渡会が、はっとしたように橘を見て頷き、部屋を出て行こうとする。
「待ってよ、渡会さん。里沙は連れて行かせないよ。ねえ、橘さん。帰るなら渡会さんと2人でどうぞ」
「貴様の指図は受けん。私はあの娘にも話があるのだ」
「へえ? どんな話さ」
「この間話しただろう? もう忘れたか」
「里沙はあんたの話なんか受ける気ないよ」
橘は嫌な顔をしてにやりと笑うと
「それは貴様が答えることではないな。あの娘は私の話をきっと喜んでくれるさ。あの娘自身が、ずっと待ち望んでいたことだからな。ようやく私の方も整理がついた」
「はっ。妄想かよ! 里沙は絶対に望んでねーよ。あいつに変なこと、吹き込むな!」
怒鳴る祥悟をせせら笑って、橘は背を向けた。
「待てよ!」
祥悟を無視して渡会を促し、部屋を出て行かせると、自分もそそくさと後に続く。
「里沙はどこさ。君の部屋?」
「あ?ああ、俺の泊まってる部屋だ。それより祥、今の話って……」
「あ~その話は後!」
祥悟は急いでスマホを取り出し電話を掛ける。
「……あ、里沙? おまえ、雅紀くんと一緒だよね? 部屋ん中? …………は? こっちに向かってる?! ダメだ、すぐに部屋に戻って。…………いや、説明は後でするから。ちょっと雅紀くんに代わってよ。…………あ、雅紀くん? 今そっちに橘が行くから、マネージャーと一緒に。……うん、でさ、里沙と一緒に急いで部屋に戻ってくれる? あいつら来ても、絶対に部屋、開けないで。電話掛かってきても出るなって言って。……そう、橘のやつ、里沙を連れて帰るって言ってるけど、行かせちゃマズいんだ。頼むね」
祥悟はほとんど一方的に捲し立てると電話を切り
「君の部屋、何号室?!」
「5階の5006だ。おい、祥。なんでそんな焦ってんだよ。ちゃんと説明しろって」
祥悟はイライラと爪を噛みながら少し考えていたが、険しい表情で顔をあげると
「だから~話は後。ダメだ、里沙のやつ、あいつに仕事だって言われたら部屋出ちゃうかも? 暁くんっ。一緒に来て!」
再び電話を掛けながら、祥悟はそう叫んで部屋を飛び出した。
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