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満ちる月2

2人は息を潜めて、しばらく様子をうかがっていた。 ベッドの脇にいた梶が、床に落ちていたガウンを拾い上げ、 「これ、羽織っとけ」 暁は梶の差し出すガウンを受け取り、雅紀の身体に羽織らせた。 「客か?」 「そのようだな。どうやら予期してない客みたいだぞ」 自分もガウンを羽織ると、雅紀にこちらを向かせて抱きすくめ 「大丈夫か?雅紀」 雅紀は弱々しく頷いて、暁の胸に顔をすりよせた。 暁は、壊れ物を扱うようにそっと、雅紀のペニスから拘束具を外してやる。雅紀は低く呻いて、ピクピク震えながら、解放された前から精液を溢れさせた。 「ティッシュ、あるか?」 梶は無言で頷き、サイドテーブルの上のBOXティッシュを、暁の方に投げる。暁はティッシュで雅紀の前を優しく拭った。 瀧田が予期していない客。 時間からして、社長が来てくれた可能性が高い。だがもし違うなら、疲れきって脱力している雅紀を連れて、強行突破することになる。 暁は雅紀の首輪と腕輪を外し、雅紀の身体を抱き締め、ドアを睨み付けた。 複数の足音が近づいてくる。隣の部屋のドアが開き 「暁っ。いるか?」 田澤社長の声だ。 「社長っ。ここです!」 暁はほっとしてベッドから降り、雅紀の身体を引き寄せた。ドアから田澤が顔をのぞかせる。だが、先に部屋に入ってきたのは、見知らぬ長身の紳士だった。 「君が、早瀬暁くんか」 暁は再び警戒した顔になり、雅紀の身体を庇うようにして 「……そうですが……貴方は?」 60代ぐらいであろうその男は、問いには答えず、暁から雅紀に視線を移した。 「君が、篠宮雅紀くんだな?」 男の後ろから田澤が顔を見せる。 「社長、この人は?」 田澤は暁の顔をじっと見つめ 「桐島貴弘さんのお父上の、桐島大胡さんだ。暁」 暁は息を飲み、男の顔を見直した。暁の後ろに隠れていた雅紀も顔を出す。 桐島大胡。 以前から田澤社長に話だけは聞かされていた。社長が昔、一生かけても返せないほどのご恩を受けたと、常々言っていた人物だ。 そして、桐島貴弘の父親。 雅紀は貴弘の愛人だった。 大胡は、息子が勝手に籍を入れようとしていることに激怒して、その相手である、雅紀の居場所を探していたはずだ。 そして、もうひとつ……。 ……よりにもよって、なんつーややこしい相手を連れて来たんすかっ、社長っ 「おじさま。いくら貴方でも、僕の屋敷で勝手なことをされるのは困りますよ」 ドアの方から瀧田の声がした。妙に甘ったるい声だ。 「勝手をしているのはお前の方だ。総一。こないだの件。揉み消してやった後でお前は何と言った?私との約束を忘れたとは言わさんぞ」 低く穏やかだが、妙に凄みのある声だ。腹の底にビリビリくる。そっと雅紀の方を窺うと、雅紀は青ざめて、瀧田ではなく大胡の方を見ている。 「そのコはこないだのコとは違う。貴弘から押しつけられただけだ。僕は何にも…」 「お前の話は後でじっくり聞いてやる。私は今、この人たちと話があるのだ。居間の方に行っていなさい」 瀧田は気味の悪い膨れっ面で、暁と雅紀を睨み付け、大胡をちらっと見て首をすくめ、部屋を出ていった。 ……何だ?あいつ。妙に媚びた声出してやがって。しかも僕とか言ってるぜ。大胡氏とどんな関係だよ。気色悪ぃっつーの。 大胡は瀧田の後ろ姿を見送ると、ゆっくりと暁の方に向き直り 「田澤くんから話は聞いた。ここで何があったか、詳しく聞かせてくれるかね?篠宮雅紀くん。君にも聞きたいことがある」 暁は神妙な顔で頷き、よろよろと立ち上がろうとする雅紀の身体を支えてやった。雅紀は暁に手を借りながらベッドから降りて、 「初めまして。篠宮雅紀です」 そう言って、大胡に深々と一礼した。 「そうか。総一は君たちにそんな酷いことを…」 「証拠は瀧田が撮りためている動画です。薬を使って雅紀に様々な行為を強要してる。脅迫もです。その動画には息子さん……貴弘氏の姿も写っています」 暁の言葉に、大胡はますます苦い顔をして 「あの馬鹿者が……。篠宮くん。私は貴弘から、君のことを恋人だと聞かされている。それは嘘なのだな」 雅紀は強ばった表情で、暁をちらっと見てから大胡に向き直り 「貴弘さんとは…月に1~2度お会いして、食事に行ったり……ホテルに……行ったりしていました。ただ俺は……申し訳ありません。恋人のつもりはありませんでした」 「つまり遊びだったわけか。いや、当然だな。あれには妻がいたし、そもそも男同士だ。貴弘が血迷って勝手に君に入れあげたわけか」 「証拠はありませんが、貴弘氏は雅紀にストーカー行為もしていたようです。アパートの部屋に無断で入っている可能性がある。私はその件を警察に相談に行くつもりでした」 大胡は、ため息をついて顔を手で覆った。 「そうか……。すまなかった。謝って済むことではないが」 

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