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満ちる月3

「まずは父親として、貴弘のしたことを詫びさせてくれ」 そう言って頭をさげる大胡に、暁は憮然とした表情で 「申し訳ないが、俺はこの件を謝罪だけで済ませるつもりはありませんよ。監禁。薬。拘束。脅迫。性的な行為の強要。雅紀は心身ともに深く傷ついている。瀧田総一にも桐島貴弘にも、きちんとした償いをしてもらいます」 「当然だな。私も謝罪だけで済むとは思っていない。今回ばかりは、私も腹をくくるつもりだ。いや、もっと早くにそうするべきだった。本当に、すまなかった」 桐島大胡はそう言って、暁と雅紀に深々と頭をさげた。それまで暁にしがみつくようにしていた雅紀が、手を離してよろよろと大胡氏に歩み寄る。 「あの……頭をあげてください」 大胡が顔をあげると、雅紀は少し怯んだ様子で、それでも真っ直ぐに大胡を見つめ 「もう2度と、こんなことはしないと、2人に約束させて頂けますか?」 「もちろんだ。こんな犯罪行為もそうだが、貴弘には2度と君に迷惑をかけないよう約束させて、必ず守らせる」 雅紀はちょっと躊躇してから、掠れた声で 「ここで撮られた動画……コピーされてないか確認して、回収してもらえますか?」 「ああ。今すぐそうさせよう。悪用なんか絶対させないからね」 雅紀は頷いて、深呼吸すると 「だったら……俺、警察には行きません」 雅紀の意外な言葉に、暁は唖然として 「おいっ、雅紀っ」 「大事にはしません。2度としないと誓ってもらえるなら、もういいです」 「いや。それはいけない」 暁は雅紀の肩を掴んで、自分の方を向かせ 「雅紀、俺もそれは賛成しないぜ。2人には相応の法的社会的制裁を受けさせるべきだ」 雅紀は暁を見つめて、弱々しく微笑み 「貴弘さんと……付き合ってたのは事実だから。俺はそのつもりなくても、彼に誤解させるようなこと、俺、してたんだと思う。だから……俺も悪いんです」 「そうじゃねえだろ?雅紀、それは違うぞ。例え誤解したとしてもさ、こんなことは許される行為じゃねえんだ」 「暁、ちょっと待て」 田澤が間に入ってくると、興奮する暁を制して、雅紀の方へ近寄り 「とりあえず話は後だ。暁、篠宮くんはかなり疲れているだろ。今は少し休ませてやれ」 「や、社長っ、でも…」 「お前の気持ちも、篠宮くんの気持ちもよく分かった。とにかくこの場はいったん俺に任せろ。絶対に悪いようにはしない。俺を信じろ」 暁はまだ納得いかなげに、田澤と大胡を見て、傍らの雅紀に目をやった。たしかに雅紀は疲れ果てている。心身ともにだ。 「……わかりましたよ。んじゃ、とにかく雅紀を休ませてきます」 暁は雅紀を抱き上げて 「あ、そうだ、社長。俺と雅紀の服と持ち物、瀧田から取り返してください」 その言葉に大胡が、部屋の隅に控えている使用人を呼ぶ。 「君、ここはいいから、彼らをどこか休める部屋へ案内して。それから、彼らの着ていた服と荷物を、部屋に届けてやってくれ。総一には私から話をするから」 「かしこまりました」 暁は使用人に案内されて、雅紀を抱えあげると、部屋をあとにした。 残された大胡と田澤は、顔を見合わせ、深いため息をついた。 「あれが……そうなのだな」 「ええ、大胡さん」 「そうか……。灯台もと暗しか。まあ、いい。その話は後だな。まずは、総一だ。……田澤、悪いがしばらくつきあってもらうぞ」 「わかってますよ。大胡さん。さ、行きましょう」 夕べ泊まった客間に案内され、使用人が出て行くと、暁は雅紀をそっとベッドに横たわらせた。雅紀はほぉっと息をつくと、ベッドに腰かけて自分を見下ろしている暁に、ふわっと微笑み 「ありがとう、暁さん。……巻き込んでしまって……ごめんなさい」 「んー。ありがとうは受け取っとく。でも、ごめんは要らねえぜ。お前を守んのは、恋人の俺の権利だからな」 雅紀はちょっと目を見張り、嬉しそうににっこりした。暁も蕩けるような笑顔になって 「あ~お前の笑顔、やっぱ最高♪その顔見るだけで、俺、何でも出来る気がするぜ。うー可愛い、可愛い」 暁は雅紀の頭をくしゃくしゃかき混ぜる。雅紀は微笑んだまま、嫌がりもせずに大人しくしている。 「お。何?いつもみてぇに言わねーの?暁さんっ髪ぐちゃぐちゃになるからやめてください!ってさ」 雅紀の声真似までしてみせる暁に、雅紀は声をあげて笑い出した。 「んもぅ……全然似てないし……。暁さん、俺ね、もう暁さんには会えないんだって思った時…」 暁は笑顔をひっこめ、真剣な眼差しになる。 「すっごく後悔したんです。もっと素直に甘えればよかった。恥ずかしがってばかりいないで、ちゃんと嬉しいって、して欲しいって、言えばよかったって」 「そっか……。んじゃあもうツンデレにゃんこは卒業か」 「や……俺、ツンデレにゃんこじゃないし…」  

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