620 / 620
番外編『愛すべき贈り物』169
雅紀が電話を切ると、里沙は心配そうに顔を覗き込んできた。
「祥、何て? もう話し合い、終わったのよね?」
「うん。あのね、里沙さん。橘さんが今、里沙さんを迎えにこっちに来るそうです。でも祥悟さん、一緒に行って欲しくないみたい。とにかく1度部屋に戻りましょう?」
「お義父さまが……」
「ね? 祥悟さん、里沙さんと話がしたいんだと思う」
雅紀は悩み始めた里沙を促し、部屋の方に歩き始めた。
エレベーターがリンと音を立てて、ドアが開く。部屋のドアを開けようとしていた里沙が、はっとしたように振り返った。
「里沙。待ちなさい」
「お義父さま」
橘がマネージャーの渡会と一緒に近づいてくる。雅紀は咄嗟に里沙を庇うように間に入った。
……ダメだ。祥悟さん、すっごい焦った声出してた。話し合いどうなったか分かんないけど、里沙さんをこのまま行かせちゃダメだよね。
「里沙さん、部屋に入って」
間に立ち塞がる雅紀を、橘は不機嫌そうに睨み付けた。
「君、退きなさい。里沙、一緒に帰るよ、おいで」
里沙は戸惑ったように、雅紀と橘を見比べた。
「里沙さん、お願い。部屋に」
「邪魔をするんじゃない。里沙、何をしている。早く来なさい。向こうに帰って、今度の撮影の衣装合わせがあるのだよ」
橘の言葉に、里沙は開きかけたドアノブから手を離した。
「衣装合わせが? 予定、早まったんですか?」
「そうだ。他にもいろいろ打ち合わせがある。とにかく一緒に帰ろう」
里沙は悩んだ顔になり、雅紀をちらっと見た。雅紀は無言で首を横に振る。
「でも……お仕事なら、私、行かなくちゃ」
……祥悟さん、暁さん、早く来てっ。
このままでは、里沙は橘と一緒に行ってしまう。事情が飲み込めていない雅紀には、それを阻止出来る理由がない。でも、祥悟の切羽詰まったような声音が、里沙をこのまま行かせてはいけないと告げていた。
「君、いい加減にしないか。そこを退けなさい」
橘が苛立った様子で、雅紀に手を伸ばしてきた。
リンっというベルの音が響き、エレベーターのドアが開く。
飛び出して来たのは、祥悟と暁だった。
「里沙!」
先にエレベーターから飛び出してきた祥悟が叫ぶ。
「祥っ」
里沙が答え、橘ははっとしたように後ろを振り返った。祥悟が駆け寄って橘に掴みかかろうとする寸前で、暁が祥悟の腕を掴んで止める。
「離せっ。邪魔すんな!」
「雅紀っ。里沙を部屋に連れてけ!」
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!




