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番外編『愛すべき贈り物』174

「里沙があの家出たのってさ、その奥さんとのことが原因‍?」 「……そうね。お義父さまは私に優しくしてくださったけど、それがお義母さまを、余計に不安にさせてた。あの人、だんだんおかしくなってきて、当てつけに男の人をお義父さまの留守に家にあげたり。挙句の果てには、そういう男の人を私の部屋まで連れてきたりして……」 言いにくそうな里沙の言葉に、祥悟は息を飲んで身を乗り出した。 「なにそれ。おまえ、そいつに何かされそうになったのか?」 里沙は慌てて首を振ると 「ううん。大丈夫。その時は私、必死で逃げたから。 でも……だんだんお義母さまのやることがエスカレートしていくのが……怖くなったの」 「んー。家、出て正解だな。完全にヤバイだろ、それ」 険しい表情で呟く暁に、里沙も頷いて 「うん……。一緒に住んでるから、違うってどれだけ言っても、どうしても疑われちゃうでしょ。お義父さまは気づいてなくて、どうして家を出るんだって、すごく心配してくださったけど……。私、本当のことは言えなかった」 祥悟は内心、ため息をついた。 ……そりゃあさ、里沙の性格なら、言えないだろうな。 疚しいことはしていなくても、奥さんの指摘通り、里沙は橘のことを心密かに好きだったのだ。 「里沙……。おまえの気持ち、確かめておきたいんだ。まだ……好きか?」 祥悟はそう言ってから、ちらっと暁たちの方を見て、里沙の顔色を窺った。恐らく2人は里沙が誰を好きなのか知っている。里沙もこの2人になら話を聞かれてもいいのかもしれないが。 人払いを頼んだ方がいいんだろうか。 祥悟が相手の名前を濁したのに気づいて、里沙は首を竦め 「大丈夫。暁は知ってるし、雅紀くんにも話したから」 「そっか……」 「まだ好きかって聞かれたら、多分……好きだわ。ずっと片想いしてきたから、私。でも」 「でも……‍?」 「好きな気持ちと同じくらい、もう忘れたいの。すぐには無理でも、もう好きでいたくない」 「……里沙……」 「お世話になった恩は一生忘れないわ。でももう、あの人から出来るだけ離れたいって思ってる。祥はあの人から……なんて言われたの‍?」 祥悟は里沙の目をじっと見つめた。 里沙が今言ったことは、本気の本音だろうか? 橘は里沙にまだ自分の思惑は打ち明けていないみたいだが、それを告げられても、里沙はきっぱり断ることが出来るんだろうか? 確かめたい。 でも確かめるのは怖い。 そうやってずっと、ぐずぐず先延ばしにしてきたのだ。 もういい加減、腹をくくるべきだろう。

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