625 / 646
番外編『愛すべき贈り物』174
「里沙があの家出たのってさ、その奥さんとのことが原因?」
「……そうね。お義父さまは私に優しくしてくださったけど、それがお義母さまを、余計に不安にさせてた。あの人、だんだんおかしくなってきて、当てつけに男の人をお義父さまの留守に家にあげたり。挙句の果てには、そういう男の人を私の部屋まで連れてきたりして……」
言いにくそうな里沙の言葉に、祥悟は息を飲んで身を乗り出した。
「なにそれ。おまえ、そいつに何かされそうになったのか?」
里沙は慌てて首を振ると
「ううん。大丈夫。その時は私、必死で逃げたから。
でも……だんだんお義母さまのやることがエスカレートしていくのが……怖くなったの」
「んー。家、出て正解だな。完全にヤバイだろ、それ」
険しい表情で呟く暁に、里沙も頷いて
「うん……。一緒に住んでるから、違うってどれだけ言っても、どうしても疑われちゃうでしょ。お義父さまは気づいてなくて、どうして家を出るんだって、すごく心配してくださったけど……。私、本当のことは言えなかった」
祥悟は内心、ため息をついた。
……そりゃあさ、里沙の性格なら、言えないだろうな。
疚しいことはしていなくても、奥さんの指摘通り、里沙は橘のことを心密かに好きだったのだ。
「里沙……。おまえの気持ち、確かめておきたいんだ。まだ……好きか?」
祥悟はそう言ってから、ちらっと暁たちの方を見て、里沙の顔色を窺った。恐らく2人は里沙が誰を好きなのか知っている。里沙もこの2人になら話を聞かれてもいいのかもしれないが。
人払いを頼んだ方がいいんだろうか。
祥悟が相手の名前を濁したのに気づいて、里沙は首を竦め
「大丈夫。暁は知ってるし、雅紀くんにも話したから」
「そっか……」
「まだ好きかって聞かれたら、多分……好きだわ。ずっと片想いしてきたから、私。でも」
「でも……?」
「好きな気持ちと同じくらい、もう忘れたいの。すぐには無理でも、もう好きでいたくない」
「……里沙……」
「お世話になった恩は一生忘れないわ。でももう、あの人から出来るだけ離れたいって思ってる。祥はあの人から……なんて言われたの?」
祥悟は里沙の目をじっと見つめた。
里沙が今言ったことは、本気の本音だろうか? 橘は里沙にまだ自分の思惑は打ち明けていないみたいだが、それを告げられても、里沙はきっぱり断ることが出来るんだろうか?
確かめたい。
でも確かめるのは怖い。
そうやってずっと、ぐずぐず先延ばしにしてきたのだ。
もういい加減、腹をくくるべきだろう。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!




