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番外編『愛すべき贈り物』176

苦笑する里沙に、暁はほっとしたように笑って 「祥とおまえがあらぬ関係だって思い込んだり、おまえに愛人になれって言ったり。まったく……舐めたことしてくれるぜ。ふざけやがって」 暁の言葉に里沙がくすくす笑い出した。その声に、物思いに沈んでいた祥悟が驚いて顔をあげた。 「ほんと。舐めてるわよね。私や祥のこと、なんでも自分の思い通りになる道具だとでも思ってるのかしらね」 少し頬をふくらませ、笑いながら言う里沙に、祥悟の目が見開かれていく。 「え……里沙……おまえ……」 暁は手を伸ばすと、祥悟の頭をぐしゃっとして 「あのな、祥。おまえ、さっきから何そんなに落ち込んでんだよ? まさかそんなふざけた申し出、里沙が喜んで受けるって思ってんじゃねーよな?」 祥悟は息を飲み、暁の顔を見上げる。 ……え……だって……だってさ、里沙は……。 苦笑いしている暁の顔をぼんやりと見つめてから、祥悟は恐る恐る里沙に目を向けた。目が合った里沙は、暁と同じ表情をしていた。 「じゃ……じゃあ……断った……のか? あいつの、申し出」 妙に絡んだような掠れた声が出てしまった。里沙は首を横に振って 「ううん。まだよ。答えは今度の撮影の時に聞くからねって。あの人、私の話なんか聞いてくれなかったもの。それに、祥のこと、妙な話を引き合いに出してきて、何か裏で変なことを企んでるみたいだったから。それがどんなことか分かるまで、私は何も知らないフリすることにしてたの」 「…………」 祥悟は、言葉を失って、ただただ里沙の顔に見とれた。 柔らかく微笑む里沙に、子どもの頃の姉の顔が重なる。 ショッキングな事件で両親に先立たれた2人に、遠い親戚や近所の人、そして施設の人たちまでもが向けてきた、好奇の眼差しや悪意のある噂話。 ショックで声を失った自分を、この優しくて強い姉は、そういう心無い周囲の仕打ちから、身を呈して守ってくれたのだ。 ……おんなじだ……あの頃と。 「ごめんね、祥。もっと早く、あの人の思惑を突き止めて、貴方にもちゃんと話しておきたかった。いろいろ心配かけちゃったわよね」 優しい姉の顔が滲んでしまいそうで、祥悟はぐっと目に力を込めて首を振る。 「何も分からない状態でこの話をしたら、貴方きっと怒って、あの人の所に殴り込みにいっちゃうかなって。あの人が事業家としてはかなりのやり手で、場合によってはかなり狡い手を使うってこと、私ずっと側で仕事してて分かってたわ。だから何の策もなく貴方が飛び込んで行ってしまうのが……怖かったの」 「里沙……」

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