130 / 369

第34章 愛よりいでて誰より愛(いと)し1

「父さんが……どうしてここに……?」 朝、瀧田から連絡が来た。早瀬暁が雅紀を取り返しに来てるからすぐ来いと。 今夜も出席する予定になっていたパーティーをキャンセルし、急いで駆けつけてみれば、早瀬暁ではなく父親がいて、全身から不機嫌なオーラを出していた。 「そこに座れ、貴弘。総一の隣にだ」 貴弘は腑に落ちないまま、瀧田を睨み付け、しぶしぶその横に腰をおろす。 「雅紀はどこだ?」 父親に聞こえないように、小声で瀧田に確かめると、瀧田は首をすくめ 「さあ?僕は知らない。まだこの屋敷にいるんじゃない?それよりおじさまのお説教聞くのが、先みたいだけど?」 「総一っ。黙れ」 「はーい。ほら、怒られた」 瀧田は何がおかしいのか、くすくす笑っている。 貴弘は眉を寄せ、父親の顔をじっと見て 「何のお説教ですか?こないだの件なら、私の気持ちはもう話したはず…」 「総一が撮った動画を見たぞ」 大胡の言葉に貴弘はハッとして、瀧田を睨み付けた。 瀧田は両手をあげて首をすくめ 「僕のせいじゃないよ。おじさまが勝手に見たんだから」 「総一、お前は黙っていろ。貴弘、貴様は自分のやっていることがわかっているのか?!抵抗も出来ない篠宮くんに、あんなむごいことをしおって!」 「父さん、あれは…」 「言い訳など聞く耳もたん!早瀬くんは貴様を訴えると言っているぞ。覚悟を決めるのだな」 「早瀬っ?あの男に会ったのですか?どこです?まさか雅紀と一緒に…」 貴弘は青ざめて立ち上がり 「どこだ?!総。雅紀はどこにいるっ。あいつと雅紀を会わせたのか?!」 「早瀬暁は雅紀の恋人だそうですよ。残念、貴弘。あなた振られましたね。雅紀は貴弘より、あの探偵の方が好きなんですって。彼らのラブラブエッチ、見てみます?雅紀が実に愛らしく写ってますよ」 「総っお前!」 貴弘が鬼のような形相で、瀧田に掴みかかった。 「殴りたければどうぞ?僕は嘘は言ってない。あのコの恋人だなんて、貴弘が勝手に思い込んでいただけだ」 貴弘はわなわな震え、瀧田から手を離すと 「雅紀っ雅紀はどこだ!くそっ」 「どこに行く!?2人なら今休んでもらっている。お前が会いに行くことは許さんぞ」 「父さんっ。雅紀はあの探偵に騙されているだけですっ。一緒になんかしてたら、また雅紀を傷つけられてしまうっ」 「貴弘……。いい加減に目を覚まさんか。篠宮くんを騙して脅して傷つけたのは、お前の方なのだぞ」 「何をバカなことを。何もご存知ないくせに、口を挟まないでください。これは私と雅紀の問題だ。いくら父さんでも余計な口出しは…」 「頭を冷やせ。篠宮くんは私にはっきり言ったのだ。お前には申し訳ないが、恋人だったつもりはないと」 貴弘は目を見開き、大胡を見下ろした。大胡はその視線を真っ直ぐ受け止めている。貴弘の握りしめた拳が震えた。 やがて貴弘は力なく笑って首を振り 「……そんなことは嘘だ……。そんなはずはない。雅紀は……雅紀は俺のことを…」 「諦めろ、貴弘。お前の一方的な思い込みだったのだ。篠宮くんの気持ちはお前にはない」 貴弘はテーブルをダンっと叩くと 「嘘だっ。そんなことは信じないっ。雅紀は早瀬に何か弱味を握られて、無理矢理そんなことを言わされてるっ。俺が会って直接話をします。総、雅紀の居場所を言えっ」 瀧田はボソッと呟いた。 「一番東の客間…」 「総一っ余計なことをっ。貴弘っ待て!」 大胡と田澤が慌てて止めに入るよりも早く、貴弘は居間を飛び出して行く。 後を追って大胡と田澤が出ていくのを、瀧田は薄笑いを浮かべて見送っていた。 「なあ、雅紀。お前寝なくていいのかよ?」 布団の中でしばらくキスをしたりしていちゃついていたが、雅紀は赤い顔をして、もぞもぞ起き出して 「暁さんと一緒だと、ドキドキして寝られません」 「おまっ……それは我が儘だっつーの。側にいてっつったのお前だろ?」 雅紀は上目遣いでじと…っと暁を見つめ 「俺……暁さんのアパートに帰りたい……。ダメ……ですか……?」 ……くそぉ…可愛いぞっ。その顔…っ 途端に暁はデレデレ顔になる。 「だめなわけねえだろ~。んじゃ、とっととトンズラして、帰るか。俺たちの愛の巣に」 「うわぁ……愛の巣って……。暁さんオヤジくさい…」 暁は雅紀の頭を抱え込んでわしわしして 「お前は~。可愛かったり可愛くなかったり、どっちなんだよっ」 「や、俺、男だし、可愛いわけないし。って、痛いっ。暁さんっ髪もつれてるからっ」 暁の頭わしわしに必死に抵抗して逃げると、ベッドから降りて 「暁さん、俺の服は?」 「んー?お前のはこれ、タキシードな」 雅紀は顔をしかめ 「そっか……俺、それ着てここに来たんだった……。この格好もやだけど、それも嫌だな…」 「おし。待ってろ。クローゼットん中見てやるからさ」

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!