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愛よりいでて誰より愛(いと)し2
暁はクローゼットの中を物色し始めた。
「何だこれ……。あの変態野郎はとことん悪趣味だな。どのシャツもぴらぴらのひらひらだ。普通の服はねえのかよっ」
フリルだらけの白や黒のドレスシャツの中から、比較的まともな白のシャツを選び出して、雅紀の方へ放ると
「パンツはこの黒のにしとけ。アパート帰ったら着替えりゃいいさ」
ピタッとしたレザーパンツを渡されて、雅紀はうんざりした顔で着替え始めた。
どこの王子様だよっと突っ込みたくなるフリフリのシャツは、顔が小さく目が大きめの雅紀にはよく似合った。パンツは上質の革なのだろう。滑らかに雅紀の綺麗な形のヒップを包み、細い足をよりスラッと引き立てている。
暁は自分でくちゃくちゃにした雅紀の柔らかい髪を、手櫛で直してやりながら、満足そうな顔をして
「ま。俺の雅紀は天使だからな。どんな格好しても可愛い、可愛い」
「……天使って……。しかも、なんで暁さんがどや顔ですか…」
雅紀は姿見に映る自分の姿にガッカリしながら、暁に力なく突っ込みを入れた。
「あ、お前の荷物これな。中身確かめてみろよ」
雅紀はうなづいて、テーブルの上のバッグに手を伸ばした。その時―
バタンっ!!
ドアが勢いよく開き、男が飛び込んでくる。
暁ははっとして、ドア側にいた雅紀の腕を咄嗟に引き寄せ、庇いながら抱き込み、迫る男に対して、くるりと背を向けた。
「早瀬暁っ!貴様~~っ」
怒号とともに、殴りかかってくる腕が目の端に見えた。暁は雅紀の頭を自分の腕で抱え込んで、身構えた。
ガツンっと側頭部に衝撃が走る。暁は呻いてたたらを踏み、それでも雅紀を庇って、その場に踏みとどまった。
「暁さんっっっ!」
雅紀の悲鳴のような声が響く。
「雅紀を放せっ!」
再び、怒鳴り声と共に拳が飛んできた。暁は雅紀を抱えたままベッドの方へ逃れようとしたが、かわしきれずに次の一撃が肩にめり込む。
「っぐっ…」
暁は呻き声をあげ、それでも雅紀を奥のベッドの方へ押しやり、今度は自分の背で庇うようにして、暴漢の方に振り返った。
鬼の形相の貴弘がそこにいた。
更に殴りかかってくるのを、ガシッと腕で受け止めて、
「何しやがるっ!」
怒鳴り返し、貴弘の胸ぐらを掴んで、雅紀から遠ざけるようにテーブルの方へ突き飛ばした。
「暁さんっ!」
雅紀が叫びながらベッドから身を起こし、こちらへ来ようとするのを
「来るなっ」
鋭く制して、体勢を立て直し再びこちらへ向かってくる貴弘に、掴みかかっていく。
「貴弘っやめなさい!」
「暁っ!大丈夫か!」
叫びながらドアから飛び込んできた2人が、貴弘に後ろから取りついた。
「放せっ。邪魔するな!」
暁から引きはがされ、貴弘は唸るように叫び、2人の手を振りほどこうともがく。
雅紀は泣きながら、暁の背中に飛びついてきた。
「暁さんっ暁さんっ」
「ばかっ下がってろって!っつぅ……いってーー…」
頭がくらくらする。肩もズキズキした。暁は呻き声をもらしながら頭をふり、雅紀の身体を貴弘からなるべく離すように後退り、ふいにくらりときて足の力が抜けた。
雅紀は暁の身体に抱きついたまま、尻餅をつきかけた暁の身体を必死で支える。
「暁さんっあっ暁さんっっ」
暁のデカイ身体を支えきれずに、一緒にずるずると床にへたりこみながら、雅紀は暁の名を呼んだ。
「……だい……じょーぶ、だ……雅紀。お前、潰れる、から、手、放せって」
田澤に取り押さえられた貴弘は、その手をふりほどこうと暴れながら
「早瀬っ!雅紀から離れろっ貴様よくも……っ」
「この馬鹿者がっっ!」
大胡の怒鳴り声とともに、ガツンと音がして、貴弘の身体がテーブルにぶつかる。殴られて吹っ飛んだ貴弘を、再び田澤が体重をかけて押さえこむ。
「暁っ怪我は!?」
暁はまだくらくらする頭を押さえながら、床に手をついて、自分の身体を支え起こした。雅紀は泣きじゃくりながら、暁の下から這い出した。暁の前にまわりひざまづいて、両手で顔を包んでのぞきこんでくる。
「あきらさんっ怪我っどこ?痛い?ね、暁さんっ」
「ちょっと、くらくらする、だけだ。心配すんなって」
暁は雅紀ににかっと笑ってみせ、
「お前、顔ぐちゃぐちゃ。泣くなよ~。頼むから」
雅紀の頬の涙を拭って抱き寄せて、貴弘の方に目をやった。
田澤に床に押さえこまれている貴弘と目が合う。貴弘はギリっと暁を睨み付け
「雅紀っ。そいつから離れろっ。俺が来てやったから、もう大丈夫だ」
「貴弘っ。まだ言うかっ」
貴弘は大胡の叱責も聞こえない様子で、雅紀の方に必死に手を伸ばす。
「どうしてそんな男を庇う?お前は騙されているんだよ。いいから私の所へおいで。お前を助けに来たんだ」
「違うからっ、貴弘さんっ。俺は騙されてなんかいないっ。お願い……もう止めて…」
雅紀は悲痛な声をあげ、暁の頭を抱き締める。
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