629 / 646
番外編『愛すべき贈り物』178
苦笑混じりの智也の言葉に
「……なんか、予定あんの?」
「いや、ないよ。ただ、もし俺が出ていたら、せっかく来てくれても空振りだろう?」
「いいじゃん。おまえ、ちゃんと部屋にいたんだからさ」
靴を脱いであがろうとした祥悟の足がよろけた。智也は慌てて彼の腕を支えて
「もしかして……酔ってる?」
祥悟は智也の肩に頭を預けて、ふぅ……っと吐息を漏らした。
「ん……酔ってる。今日は結構、飲んだかも」
智也はそっと祥悟の顔を覗き込み、何も言わずにぐいっと抱き寄せると
「歩ける? 抱っこしてあげようか?」
「ばーか。歩けるっての。腕、貸して」
智也は微笑んで頷くと、祥悟を支えながらリビングに連れて行った。
ソファーにどさっと腰をおろして、祥悟は背もたれに身を預ける。智也は急いでキッチンに行き、グラスにミネラルウォーターを注いで、彼の元に戻った。
「はい、水」
「ん……ありがと」
祥悟は気怠げに顔をあげ、そう呟いたが、手を出して受け取ろうとはしなかった。
「飲ませてあげる?」
祥悟はのろのろと首を横に振り、ぐいっと身体を起こした。
手を伸ばし、差し出されたグラスを受け取ってあおる。
ごくごくと水を飲む祥悟の横顔を、智也は黙って見守った。
祥悟がこんな風に、酔って突然この部屋を訪ねてくることは、珍しくはない。
ただ、いつもとは何か様子が違う気がした。
口移しに水を飲ませるのも、ごく当たり前にいつもやっていたから、拒否されたことに智也はちょっとショックを受けていた。
……なんだろう。怖いな……。
祥悟とたまに身体を重ねる関係になってから、もう10年以上経つ。智也がモデルを辞めた後、しばらく疎遠になった時期もあったが、その後また祥悟が気紛れに訪ねてくれて、長い腐れ縁は続いていた。
一時はこんな関係が切なくなって、自分1人にしないかと持ち掛けたこともある。でも祥悟にあっさりと却下されて、もう1度同じことを言う勇気はなかった。
たまに会うのが自然になっていて、智也はもう彼との関係に今以上のことを望むのは止めている。過大な期待はしない。例え気紛れでも、祥悟との細い糸がまだ切れずにいる。それだけで充分だった。
……でも……もしかして……。
祥悟はグラスの水を一気に飲み干すと、はぁっとため息をついて、口の端から零れた雫を手の甲で拭った。
「どこでそんなに、飲んでたんだい? 誘ってくれたら付き合ったのに」
智也は祥悟からグラスを受け取ってテーブルに置くと、隣に少し間を開けて座った。
「んー……まあ、いろいろ。独りで飲みたかったからさ、知り合いいねえとこ、わざわざ選んでたの」
「そう……。何か、あった?」
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!




