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番外編『愛すべき贈り物』180

うっとりと微笑んでいた祥悟の顔から、ふっと表情が消える。 「一生、ずっと、好きでいようって思ってたんだよね。絶対に叶わないからさ。打ち明けることも出来ないからさ。ただ黙って好きでいようって……思ってた」 胸の奥がズキズキ痛む。この痛みが、祥悟にそれほどまでに愛されていたあの人に向けての嫉妬なのか、祥悟の哀しみに共鳴してなのか、分からない。多分、両方なんだろう。 「告白……したのかい?」 声が震えてしまう。 ダメだ。そんなこと聞いちゃ。 「……しないよ、告白なんか。この想いはさ、墓場まで持っていくんだ。あいつを苦しめたくないからな」 だったら……何故‍そんな顔……? 何があったんだい‍?祥。 「……夢の時間は終わるんだよな。俺はあいつを愛してるけど、あいつも俺をちゃんと愛してくれていた。俺とはまったく違うベクトルでさ。ようやく気づいたんだよね。自分の中にあるエゴにさ。あいつの心を見えなくしていたのは、俺自身の中にある狂気と自己満足な愛情だった。俺はずっと自分の殻の中に閉じ篭って、歪んだ心のまま、あいつを見続けてきた。そう、気づいたんだ。……いや、気づかせてくれたんだよね、あいつがさ」 「祥……」 能面のような祥悟の目から、不意に涙がつーっと一筋零れ落ちた。泣きたくなるほど綺麗に透き通った涙なのに、何故か血の色のようにも見えた。 「俺……父さんが嫌いだった。殺したいくらい憎んでた。だってあの男は母さんに、無理やり俺たちを産ませたんだぜ。半分血の繋がった……妹だったのにさ。自分の歪んだ欲望を、母さんに向けてた。罪の意識に気が狂いそうになってる母さんを、あの男は狂った愛情で縛りつけてたんだ。そして、ある日連れてっちゃった。誰の手にも届かない場所に」 鋭い刃で心を貫かれた気がした。何の感情も見せない能面のような祥悟の顔から、流れ落ちる血のような涙。 そうだったのか……。この美しい青年が心の奥に抱えていた闇は、そんなにも残酷な救いようのない過去だったのか。 智也は込み上げてくる言いようのない怒りと哀しみをぐっと押し殺し、祥悟の肩をぐっと抱き寄せた。 「はは……ごめんな。智也。おまえにこんな重たいこと告っちゃってさ。ドン引きだろ?」 腕の中の祥悟が身動ぎして、泣きそうな怯えたような目をして智也を見上げる。 ……バカだな、祥。そんな哀しい顔、しないでくれよ。 智也は穏やかに微笑んで首を振った。 「するわけないよ、ドン引きなんて。君が話したいこと、もっと話して。遠慮なんか要らない。俺はもっと、君のことを知りたいんだからね」

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