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番外編『愛すべき贈り物』181
祥悟は少しほっとしたように、智也の胸に寄り掛かって
「母さんを奪っていった父さんを、俺は許せなかった。……酷いよな。止めることも、なんでそんなことすんだよって、文句言うことも出来ないんだぜ。母さんを刺したナイフで自分も喉刺してさ、血の海の中で、あいつ……満足そうに微笑んでた。勝手すぎるよな。すげーさ」
智也は抱き締める手に力を込めて、背中をそっとさすってやった。
「俺、たまたまその日は、1人で先に家に帰ったんだよね。で、第一発見者になっちまったの。里沙はそのこと、すっげー悔やんでてさ。自分が代わりになってやりたかったって泣いてたけど、俺はほっとしてたんだ。あんな酷いもん、里沙に見せずに済んでさ。
里沙は知らねえの。父さんと母さんが半分血の繋がった兄妹だったってこと。俺は母さんが父さんと話してるの、偶然聞いちまっただけだから。里沙には知らせたくねえんだ。出来ればそれも、俺1人で墓場まで持っていきたい秘密、な」
智也は祥悟の背中を擦りながら、無言で頷いた。
たった1人で誰にも言えずに、祥悟はそれを抱えて生きてきたのだ。ようやく吐き出すことが出来ているなら、邪魔はしたくない。
「里沙は汚したくねーの。あいつは俺のたった一つの聖域なんだ。あいつだけは陽の当たる場所で、ずっと輝いて笑ってて欲しいんだ。その為だったら、俺は悪魔に魂売り渡したっていい。汚ねえもんは全部、俺が引き受けるから。あいつだけは……」
祥悟が震えるようなため息をこぼした。智也の腕をしがみつくようにぎゅっと掴んでくる。
「それなのに、俺さ。結局あの男と……父さんとおんなじだったんだよな。父さんが妹の母さんに向けてた狂った愛情とおんなじもんを、俺は姉に……里沙に向けてた。殺したいほど憎んでた父さんと……俺はそっくりだったんだ。
……サイテーだ……っ」
祥悟の声が涙声になる。身体が小刻みに震えている。
智也は胸をぎゅっと鷲掴みにされたようだった。この慟哭に、何の慰めも与えてやることが出来ない自分が情けない。
声を殺し、小さく震えながら、祥悟が泣く。顔を埋められた自分の胸の所が、シャツを通して濡れてじんわりと熱くなる。
祥の哀しみの涙を吸い取れるのが、自分の胸でよかった。
「ねえ、祥。俺に君の深い哀しみを、完全に分かってあげることは出来ないかもしれない。でもこれだけは、はっきり言える。君とお父さんは全然同じではないよ。だって里沙さんは、君のせいで苦しんでなんかいないだろう?」
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