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番外編『愛すべき贈り物』182

祥悟がいやいやをするように頭を振った。 「里沙さんが、気づかせてくれたんだろう? 君とは違うベクトルで、でも君のこと、ちゃんと愛してくれてるんだよね? だったら彼女は不幸ではないよ」 智也は、祥悟の身体をひょいっと浮かせて、自分の膝の上に座らせると 「お父さんの愛情は、お母さんに一方的に向けられた自分勝手な押し付けだったよね。その為にお母さんは不幸な心を抱えたまま、望まない最期を迎えてしまった。 でも、君が里沙さんに向けた愛情は、里沙さんに真っ直ぐ届いていたんだろ‍う? だったら同じものなんかであるはずないよ。君の愛は里沙さんを少しも不幸になんかしていない。むしろ人を深く愛するっていう幸せと喜びを、里沙さんは常に感じていられたんじゃないかな? 俺の知ってる里沙さんは、いつも輝いていて笑っている人だった。君の想いは真っ直ぐに、通じていたんだよ」 祥吾が胸に埋めていた顔を、のろのろとあげた。涙でぐしゃぐしゃの顔。まるで小さな子どもみたいだ。 「……あいつ……不幸じゃ、ない‍?」 「ああ。世話の焼ける弟の面倒を見ている彼女は、最高に幸せそうだったね。いつもハラハラ心配しながら、君を叱り飛ばしていた姿は、イキイキしていてすごく楽しそうだったし」 祥悟は涙に濡れた目をくしゃっと歪めた。その幼い表情は、まだ出逢ったばかりの頃の祥悟と全然変わらない。 「そっか……あいつ、幸せそうだった‍?」 智也はにっこり笑って頷くと、祥悟の柔らかい髪の毛をくしゃっと撫でた。 「安心して。君の愛情は歪んでなんかいない。俺は君たちを誰よりも見ていたから、分かるよ」 ぽろぽろと零れ落ちる涙を、指先で拭ってやる。祥悟は再び目をくしゃっとさせると、智也の胸に顔を埋めた。 「……ごめん……おまえのシャツ……ぐしょぐしょだわ」 声をあげてしばらく泣いたおかげで、すっきりしたのかもしれない。次に顔をあげた祥悟は、少し拗ねたような照れたような複雑な表情で、ぼそっと呟いた。 「たまにはいいだろう?俺の頼りがいのある胸で、思いっきり泣くのも」 智也が軽口を言うと、祥悟はにやっと笑って胸を拳でつつき 「それ、自分で言っちまうとこが、台無しだよな、おまえ」 「君が言ってくれないからね。自分で言うしかない」 智也は首を竦めて苦笑した。 智也の軽口に、祥悟はいつもの皮肉めいた顔をして、肩を震わせ笑っている。 ……よかった……。いつもの笑顔に戻ってる。 「疲れただろう? そろそろ……少し横になるかい?」

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