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番外編『愛すべき贈り物』183

智也はそう言って、祥悟の顔を覗き込んだ。祥悟は慌てたようにぷいっと顔を背け 「見んなって。俺、今、酷い顔してんだろ?」 「いや。可愛い顔してるよ」 含み笑いの智也の言葉に、祥悟は智也の胸をぱしっと叩いた。 「嘘つけ。それよりさ、喉乾いた。なんか飲み物ある‍?」 「ああ。お酒がいいかい?」 「いや。酒はもういいかな」 「わかった。じゃあ紅茶をいれてくるよ」 「うん……」 祥悟は頷いて、もぞもぞと智也の膝の上からおりた。ソファーに座り直す祥悟を置いて、智也はキッチンに向かう。 紅茶をいれる為のお湯を沸かしながら、棚からタオルを取り出し、熱めのお湯に浸してぎゅっと絞った。それを持って祥悟の所へ戻って差し出す。 「顔、これで拭いて」 「……さんきゅ」 祥悟は受け取って、タオルで顔を覆った。 泣いて泣いて、祥悟の目と鼻は真っ赤になっていた。そのまま眠ってしまったら、翌朝は腫れて酷いことになりそうだ。 ……そういう顔も可愛いかもしれないけど。 キッチンに戻って紅茶をいれながら、智也は祥悟の思いがけない告白について思いを馳せた。 祥悟に訳ありの過去があることは、漠然とだが感じていた。 背負っていたのが、そんなにも重いものだとは予想外だったが、自分を信頼して打ち明けて貰えたことが嬉しかった。 ……でも、もしかしたら、それは、祥の最後のケジメなのかもしれない。 祥悟がこれまで、自分との曖昧で気楽な関係を続けてきたのは、叶わない想いを抱いている本命の相手がいたからだ。 この穏やかな停滞は、かりそめのひとときなのだ。 本命への想いを吹っ切ることが出来た今、自分の存在は祥にとってはもう……。 ……覚悟してた……つもりなんだけどな。案外、俺って未練たらしいのかもしれない。 祥がお気に入りのアールグレイの茶葉を、ティーポットに準備する自分の手が震えている。 この後、祥悟は自分にどんな話をしてくれるんだろう。 ……祥の為に紅茶をいれる……これが最後の夜になったりするんだろうか……。 丁寧に心を込めていれた紅茶を、トレーに乗せてリビングに向かう。祥悟はまだ、目にタオルを当てていた。 「タオル、1度取り替えてこようか?」 「んー。もういい」 祥悟はタオルを外して顔をあげた。まだ赤いけど、さっきよりはだいぶマシになっている。

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