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番外編『愛すべき贈り物』186
「君の過去の告白を聞いて、俺がどう思ったか。正直なことを言うよ」
智也の眼差しを受け止めた祥悟が、こくんと頷く。
「驚いた。はっきり言って本当に予想外だった。君が施設育ちだというのは知っていたからね。訳ありなんだなって思ってたけどね」
「ん。まあ、そうだよな。普通は驚いちまうよな」
「安っぽい慰めなんか言うことは出来ないよ。俺は君の苦しみを哀しみを、自分の出来る範囲で想像して、寄り添うことしか出来ない。ただ……」
「ただ……?」
智也はくしゃっと顔を歪め
「もっと早く……俺は君の心に寄り添いたかった。俺の存在なんか何の役にも立たないとしても……それでも……俺は君の心の共犯者になりたかった」
祥悟は大きく見開いた。
「君が欲しがっているのは、同情や慰めなんかじゃないだろう? そんなもの、君は少しも求めていない。だから俺は君の、誰にも言えない秘密を共有する、ただ1人の人間でありたかった。もっと……早くに」
智也の目がじわっと赤くなるのを、祥悟は信じられない思いで見つめていた。
「おま……おまえ……なに、言ってんの?」
智也の言葉が信じられなくて、智也の真っ赤になった目から、涙が伝い落ちるのが信じられなくて、祥悟は唖然とした顔で、上擦った声を出した。
「なに……言ってんだよ。え。おまえ、なに、泣いてんの?
ちょ……ちょっと……待てって」
祥悟は完全に混乱していた。この状況は、自分の予測の範囲を大きく越えている。
今日、独りであちこち飲み歩いた後で、智也の部屋を訪ねたのは、ようやくいろいろなことに気持ちの踏ん切りがついたからだった。
前に進むことも振り切ることも出来ずに、これまでだらだらと続けてきた自分の人生。
里沙への想いをようやく昇華させたことで、見えてきた一筋の光。足踏みしてきた日々を終えて、ようやく新しい1歩を踏み出せると思った時、祥悟の頭に真っ先に浮かんだ顔は、智也の穏やかな笑顔だった。
ずっとずっと細く長く続いてきた、唯一の腐れ縁。
どんなに荒れていた時でも、智也だけは変わらず、自分をおっとりと出迎えてくれた。
果てしなく居心地がよくて、心から甘えられる空間を、いつも用意してくれていた。
その心地よさを手放したくなくて、自分は智也にずっと残酷な忍耐を強いてきたのだ。そのことはちゃんと分かっていた。
智也が本当は、自分との関係に、きちんとケジメをつけたいと望んでいたことを。
……もう、あいつを、解放してやらなゃな……。
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