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番外編『愛すべき贈り物』188
涙声で呟いて、必死にいつもの微笑みを浮かべようとする智也を見て、祥悟は堪らなくなった。す…っと智也の顔に腕を伸ばす。
指先で、そっと智也の頬に流れる涙に触れると、智也はびくっとして眉を寄せた。
こんな風に泣くこの男を、今まで見たことがない。長い付き合いの中では、気持ちがすれ違ったり疎遠になりかけたこともあったが、この男が自分に涙を見せたことはなかった。
「おまえさ、俺のこと、薄気味悪いって……思わねえの?」
自分の指を濡らす智也の涙の温かさが不思議で、祥悟は首を傾げてそれに見入っていた。
「薄気味悪いって、どうして! そんなこと、思うはずないよ」
智也の怒ったような声。
なんでそんな、ムキになるんだよ。
「だってさ、俺の父さんは妹孕ませて道連れにした、頭のいかれた殺人犯だぜ? それに俺、普通より血が濃いじゃん? ……ヤバイだろ、絶対。今はまだ正気でもさ、そのうち狂った血が騒ぎ出すかもしれねえし。っつーか、俺、実際に双子の姉貴にずっと執着してたわけだし?」
祥悟がそっと触れてきた指先は、何故かひやっとするほど冷たかった。思わずびくっとしてしまって、慌てて祥悟の目を見ると、彼は自分の指先をすごく不思議そうな顔で見つめていた。
祥悟の口から淡々と零れ落ちる言葉は、自虐的で辛辣で、彼の表情や口調と全然噛み合っていない。妙に幼い表情で当然のように話すのが、かえってせつなかった。
智也は手を伸ばし、祥悟の両手をぐいっと掴むと
「薄気味悪くなんか、ないよ。君は誰よりも綺麗だし、自分に正直で純粋な人だ。側でずっと見てきた俺が言うんだから間違いないよ」
祥悟はまだ若干不思議そうな顔のまま、ゆっくりと智也に視線を移すと
「あったかいのな、おまえの涙。初めて知った」
「祥……」
「智也。おまえって、すげーいい男だよな。あったかくて優しくてさ。一緒にいるといつも、ほっと出来たんだ、俺」
「祥……」
「でもおまえ、ほんとは嫌だったろ? 俺があちこち浮気すんのさ。本当は1人と、きちんとした付き合いしたいヤツじゃん? おまえって」
智也は微笑んで、首を横に振った。
「そんなこと。君が気にすることはないよ。俺は好きで君と付き合ってきたんだからね」
祥悟はちょっと泣きそうに顔を歪めた。
「そういうこと、言うなって。おまえ、俺を甘やかしすぎ。こんな誠実じゃねえヤツ、とっとと追っ払えばよかったんだよ。そしたらもっといい人に出逢えたじゃん? 優しいおまえに相応しい、もっと一途で素直な人にさ。おまえのことだけ真っ直ぐに愛してくれるやつにさ」
「それは……違うよ。俺は誠実で一途な人が好きなんじゃない。祥。俺はね……君のことだけが、好きなんだよ」
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