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愛よりいでて誰より愛(いと)し5
「もおっ!信じらんないっ。暁さんの馬鹿~っ」
「んな怒んなよー。お前だってノリノリだったじゃん」
雅紀に真っ赤な顔でギッと睨まれ、暁は首を竦めた。
「絶対見られたっ。お店の人もお客さんも。絶対見てたっ」
「まあな。なにしろ店の真ん前だったし?」
暁は、とぼけた表情で運転している。雅紀は火照る頬を両手で押さえながら
「うわぁっ最低だっ。もうあのコンビニ、一生行けないっ」
「ばーか。大袈裟だっつーの。だいたいもう行かねえだろ、あんなとこのコンビニなんか」
「開き直らないっ。そういう問題じゃないですっ」
「お前がエロい声出すのがいけねえの。あんな声聞いたらさ、ついつい触りたくなっちまうだろー。お前のそのパンツ、うっすいのな、しかも下着穿いてねえし。お尻とか触り心地超いいし」
雅紀はボンっと音が聞こえそうなくらい赤くなると、暁の腕を思いっきりつねった。
「い゛って~~~!おいバカ何すんだよっ。運転中に危ないっつーの」
「馬鹿は暁さんですっ。ほんっとスケベっ。変態エロおやじっ」
「ひっでーな。だんだん暴言増えてってるし。大丈夫だよ。お前の尻揉んだり、ファスナー開けてちんこ触ったのまでは、店からは見えなかったはずだぜ~」
雅紀はパクパク口を開けて、でももう声も出ないのか、完全に涙目になって、頬を押さえたまま俯いた。
助手席で蹲り、まったく口をきかなくなった雅紀を、暁はちらちらと気にしながら運転を続けた。
「なあ…まだ怒ってんの?」
「……」
「悪かったよ。調子に乗り過ぎました。ごめんなさい」
「……」
「だってさ。調子にも乗っちゃうだろー。こんな可愛い恋人が隣にいてくれてんだぜ」
「……可愛いくないし。俺、男だし」
「いーや、可愛いね。男だけど可愛い。お前わかってないだろ?お前見るたびに俺のここ、どんだけドキドキしてるかさ」
そう言って、暁は自分の心臓を指さした。雅紀はそろそろと顔をあげ、まだ赤みの残る顔で、上目遣いに暁を見る。
「ほら。そういう顔。俺のここ触ってみ。ドキドキうるせえからさ」
雅紀は手を伸ばし、暁の胸に触れる。
「な?分かるだろ?」
雅紀はコクンと頷いて、でも哀しい顔になった。
コンビニの前で聞かされた話は衝撃的だった。
暁が、都倉秋音。それは嬉しい再会ではあったが、同時に悲しい別離にも繋がる。
都倉秋音は既婚者だ。奥さんと子供がいる。
一体いつ、どんな事故に遭って、何故仙台から遠く離れたこの地で、記憶喪失になっていたのかは分からないが、身元が判明したら、彼には帰らなければならない場所がある。
そしてそれは、早瀬暁としての彼との、お別れを意味していた。
「ね……暁さん」
「んー?なにどした?急に暗い顔して」
「仙台で、暁さんの本当の名前が分かったのって……記憶が戻ったわけじゃないんですよね?」
「ん。そうだな。正直、俺の頭はポンコツのままだ。思い出したいけど、たまに断片的な夢を見るくらいでさ、それだって夢なのか過去の記憶の残像なのか、俺には分かんねえし。たださ、俺が都倉秋音だっていうのは、ほぼ確定。秋音が勤めていた会社の社長が、俺のここの傷痕見てさ、入社したばかりの頃に、仕事で怪我した時の傷に間違いないって言ってた」
「藤堂社長が?会ったんですか、あの人に…」
暁はちらっと雅紀を見て
「知ってんのか?藤堂薫」
「うん……。俺、大学の時に、将来見据えてあの会社にアルバイトで入ってたから……。もともと、藤堂薫の建築デザインに憧れて、大学も仙台にしたんです、俺」
「そっか……。それであんな遠い大学に行ってたのか。お前、実家はこっちだもんな」
雅紀はちょっと疲れたような笑いを浮かべ
「うんまあ。実家から遠いとこにしたのは、他にもいろいろ事情があったんですけどね…」
「ふうん…」
雅紀の表情が気になったが、暁はあえて今は質問しなかった。きっとそこには触れられたくない過去があるのだろう。
「じゃあ、秋音さんの昔の話、藤堂社長にいろいろ聞いたんですよね?」
「んー。まあな。全部他人事みたいな感じだったけどさ」
「……結婚……してましたよね。秋音さん。お子さんもいるはずです」
暁は、雅紀の顔を思わずじっと見た。
……そっか。急に暗い顔になったのは、そういうことか。雅紀は秋音が結婚した後のことは知らないのか。
「そろそろ、アパートに着くぜ。あ、昼飯どうする?何か食ってから帰るか?」
雅紀は力なく首をふると
「俺は……まだ腹減ってないです。あ、でも暁さんが食べたいなら付き合いますよ」
「いや。俺もまだいいかな。それに冷蔵庫になんだかんだ食材あるしな。んじゃ、帰って作るか」
雅紀はコクンと頷いた。
「とりあえず、話の続きは部屋に入ってからにしようぜ。駐車場に車停めてくるけど、お前どうする?先降りて部屋行ってるか?」
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