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番外編『愛すべき贈り物』193
「ね……秋音さん……」
一旦は自分のベッドに横になった雅紀が、むくっと起きてこっちを見ている。
「ん? どうした。 眠れないのか?」
雅紀は、んー……と顔を顰め、もじもじしてから、また布団を被り直した。
「ううん。大丈夫。眠れなく、ないです」
強がる雅紀に秋音はふふっと笑って、ベッドの上に起き上がると
「こら。痩せ我慢はなしだろ。
……おいで」
笑いながら布団を持ち上げて促す秋音を、雅紀は布団から目だけ出してじ……っと見つめた。
「痩せ我慢……してないし」
ちょっと拗ねたようなその瞳が、何か話したいですと言っているみたいで、秋音は苦笑して
「おいで、雅紀。俺が寝つかれないんだよ。少し話したいな、おまえと」
そのひと言に、雅紀は目を見開いて、がばっと布団から顔を出した。
「あ。じゃあ、そっち、行きます」
「ああ」
途端に嬉しそうにいそいそとベッドから降りて、こちらに移ってくる雅紀の様子が可愛すぎる。
秋音は笑いを噛み殺しながら、ぽふっと飛び込んできた雅紀の身体を受け止めた。
雅紀はぎゅっと抱きついてきて、秋音の胸に顔を埋めた。
「秋音さん。話って……なに?」
「雅紀。まずはおまえから言ってごらん。何か気になっているんだろう?」
穏やかに水を向けると、雅紀は秋音の胸に顔をすりすりして
「うん……。祥悟さん……大丈夫かな……って」
「……どうしてそう思ったんだ?」
雅紀はちょっとの間黙り込み、やがて躊躇いながら口を開いた。
「ホテルで、里沙さんと話した後、祥悟さん……なんだか魂が抜けたみたいな、ぼんやりした顔してて……」
「うん」
「あんな祥悟さん、俺、見たことなかったし」
「そうだな……。次の日もずっと元気なかったよな」
「うん……元気ないっていうか……なんだか呆然としてて。見てるの……辛かった……」
秋音は雅紀の柔らかい癖っ毛を優しく撫でて
「そうか。辛かったか……」
ホテルでの話し合いの後、祥悟がそれまでとガラっと雰囲気が変わってしまったのは、秋音も感じていた。どう言ったらいいのだろう。まるで憑き物が落ちたような、大事に抱えていた何かを失って、途方に暮れてしまったような。
優しい雅紀は、その祥悟の心にまた共鳴してしまったのだろう。
でも秋音は、祥悟のあの変化が、ただ辛いだけのものではないと感じていた。
むしろ、あれは……。
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