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番外編『愛すべき贈り物』194

秋音は雅紀の身体をしっかり抱き直すと 「どうだろう。祥悟くんは辛いのかな。俺には……彼の気持ちが、少し分かる気がするな」 雅紀は顔をあげて秋音をじっと見た。 「祥悟さんの、気持ち‍が?」 「ああ。彼はきっと、囚われていた過去からようやく……抜け出せたんじゃないかな」 「過去……から……‍」 「うん。彼の過去なんて、俺はもちろん詳しくは知らないけどね。ただ、彼の表情を見ていて感じたんだ。彼を雁字搦めにしていた何かから……ようやく吹っ切れたんじゃないかな……ってね」 雅紀は真剣な眼差しで黙って聞いている。 「俺にも覚えがあるんだ。少し前にな。過去の事件のことが全て明らかになって、最初はやっぱりすごく混乱した。心の整理をつけるのにも時間がかかった。囚われていたからこそ、それが生きる原動力になっていたからな。真実が全て明らかになって、それは求めてきた答えだったのに、なんだか抜け殻になってしまったような呆然とした気分だった」 秋音の言葉に、雅紀はまるでどこかが痛むように、きゅっと眉を寄せた。抱きつく手にも力がこもる。秋音は宥めるように雅紀の背中をとんとんすると 「やっと解放された。……祥悟くんの様子は、俺にはそんな風にも見えたな。もちろん、辛そうでもあるけど、重荷が降りてほっとしていたように感じた。……まあ、実際のところは本人にしか分からないけどな」 「そう……そうなんだ……」 「彼の中で起きた心の変化を、完全に昇華させるのには、まだまだ時間が必要だろうな。でも祥悟くんが里沙さんを見つめる眼差しは、すごく優しくて温かかった。乗り越えられると思うんだ、彼ならきっとな」 雅紀はちょっと目をうるうるさせて 「そうですね……。きっと、時間、かかりますよね。でも祥悟さんなら大丈夫ですよね……」 「ああ。里沙さんは祥悟くんの気持ちにまったく気づいていなかっただろう‍? それは祥悟くんが、里沙さんを本当に愛していて、大事にしたいと思っていたからだ。彼の愛情は自分勝手な押し付けなんかじゃなかった。里沙さんが大切だからこそ、絶対に気づかせないようにしてきたんだと思うよ。それは……すごい事だよな」 頷く雅紀の目から、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。秋音は指先で優しくその涙を拭うと 「1人の人間を心の底から慈しむ気持ちがある彼なら、またいちから別の愛情を育むことも出来る。俺は、そう信じてる」 「うん。そうですね……」 ぐすんっと鼻をすする雅紀に、秋音はふふっと笑うと 「そんなに泣くな。明日の朝、ぶくぶくに腫れてしまうぞ。里沙さんに会う約束があるんだろう?」 雅紀はえへへ……と泣き笑いの表情を浮かべて 「うん。泣きやみます。目、腫らして会ったら、里沙さん、心配させちゃうし。あ……ところで秋音さん。秋音さんが話したいことって……何ですか?」 まだ涙の粒をくっつけた大きな瞳が、気遣わしげにじっと見上げてくる。秋音は鼻の頭にちゅっとキスをして 「いや。話したいというより……おまえとこうしてくっつきたかっただけだ」 秋音の言葉に、雅紀はじわっと目元を染めた。 「わ……。秋音さん、甘えん坊さん、ですか‍?」 「ダメか‍? 俺がおまえに甘えたら。明日の約束は午後からだろう? 出来ればおまえを……食べたいんだけどな」 急に声のトーンが低く甘くなった秋音に、雅紀は目を見開き、じわじわと頬を染める。 「食べたいって……。俺、食い物じゃないし」 秋音はにやっとして 「そうだったな。食われるのは俺の方か」 その軽口に耳まで真っ赤になて、雅紀はちろ……っと秋音の顔を睨みつけた。

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