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繋がる記憶。重なる思い3

「とにかく。今後一切、篠宮くんには接触禁止だ。分かったな、貴弘」 大胡の話が耳に入っているのかいないのか、居間に戻ってきてから、貴弘はずっとぼんやりと宙を見つめて無言だった。 「篠宮くんは、2度とこんなことをしないなら、警察沙汰にはしないと言ってくれている。だが早瀬くんは納得していないぞ。 今回の件も含めて、彼らとは私がきちんと話をして謝罪し、誠意をもって償いをするつもりだ。 貴弘、総一、お前たちが勝手に彼らに接触することは、絶対に許さん。分かったか?」 瀧田はまるで他人事のようにそっぽを向いて、退屈そうに紅茶のカップを玩んでいる。 貴弘は魂が抜けたように放心して無反応だ。 大胡は田澤と顔を見合わせ、ため息をついた。 「総一っ。私の話を聞いているのかっ」 「そんな大声出さなくたって、ちゃんと聞こえてますよ。おじさま」 「だったら返事をしろ」 「分かりました。面倒くさいから、僕はもう関わりませんよ。謝罪でも償いでも、どうぞご勝手に」 「……総一。お前はあの2人に悪いことをしたとは思わんのか。罪の意識は。反省の気持ちは」 大胡の沈痛な面持ちに、瀧田はちらっと彼を見て 「反省は……してますよ。だからもう関わらないって言ってるじゃないですか。動画だっておじさまに全部さしあげます」 「今度こんな真似をしたら、紗香が何と言おうと、お前をアメリカの病院に入院させるからな」 「入院はもう御免ですよ。検査なら前にもしたでしょう?僕はどこも悪くない。とにかく絶対にもうしません。これでいいんでしょ」 大胡は貴弘の方に目をやり 「貴弘。お前も返事をせんか」 貴弘は、のろのろと視線を大胡に向け 「雅紀は……どうしてます。あいつ、泣いていた。俺はあいつに謝らないと…」 「お2人には家に帰ってもらった。お前に本当に謝罪の意思があるのなら、後日改めて話し合いの場を設けよう。それまでは、貴弘、勝手なことは絶対にするなよ」 貴弘は頷き、両手で顔を覆って項垂れた。 大胡はもう一度深いため息をつくと 「田澤。ひとまず私は東京に戻る。お前も事務所に帰るんだろう?」 「そうですね。例の調査の件もありますから」 大胡は頷いて立ち上がり、田澤と共にドアの方へ向かった。 「ね、おじさま。あの早瀬暁って……一体何者なんです?」 2人が立ち止まり振り返ると、瀧田はうっすら微笑んで首を傾げ 「僕、子供の頃は本家の方の屋敷に住んでいたから、見たことがありますよ。お祖父様の、若い頃の写真」 瀧田の面白がっているような口調に、大胡は眉をひそめ 「それが、どうしたというのだ」 瀧田はじっと大胡の目を見つめ、貴弘をちらっと見てから、口の端を吊り上げ 「そっくり、ですよね?早瀬暁。若い頃のお祖父様に」 大胡は目を細め、瀧田を睨みつけた。 貴弘は両手を外して顔をあげ、父親の顔を見つめ、目を見開いた。 「……父さん……?……まさか……まさかあいつ……」 雅紀は布団に入っても、眠たくないとしばらくごねていたが、暁が傍に座り髪を撫でていると、安心したように目を閉じ、やがてすーすーと寝息をたて始めた。 暁は雅紀が眠っても、しばらくは側にいて、雅紀の寝顔を優しく見守っていた。 雅紀が自分の胸のうちを吐露してほっとしたように、暁もまた、心の奥底にしまいこんで誰にも話せなかったことを、雅紀に打ち明けることが出来て、心が軽くなった気がする。 まだまだはっきりしていないことや、気がかりな点もある。もっと詳しく調べなければいけないだろう。 今回の件だって、雅紀の気持ちが落ち着いたら、一緒に連れて行って、桐島親子と話し合う必要がある。貴弘があれですっかり雅紀への想いを断ち切れたとは思えない。暁としては、正直、もう雅紀と貴弘を会わせたくないのだ。だから、そのことを思うと気が重い。 けれど、この先どんなことが待ち受けていようと、辛い思いや哀しい現実を知ることになろうとも、雅紀が傍にいてくれて、あのふんわりとした優しい笑顔を見せてくれるのなら、乗り越えていけると思えるのだ。 ……すげえよな。お前の存在ってさ。お前とあの日出逢えなかったら、俺はまだ迷路の中で迷子のまんまだった。お前がさ、俺の手を引いて導いてくれてるんだよな。 暁は雅紀の手をとると、感謝の気持ちを込めて、その手に唇をそっと押し当てた。 「どうするの?早瀬暁のこと」 「お前とはもう話したくないと言ったはずだ」 「ふーん。じゃあ、本当に諦めちゃうんだ?雅紀のこと。まあ、そうですよね。さっきのおじさまの話が本当なら、早瀬暁は氏素性も知れない探偵風情じゃなくて、ひょっとしたら貴弘の…」 「やめろっ。その話は聞きたくないっ」 顔を背けた貴弘に、瀧田は後ろから近寄って 「僕が貴弘なら、あいつにだけは、雅紀を渡したくないけど?」 意味ありげに、耳元に囁いた。

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