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番外編『愛すべき贈り物』205

今回の撮影のコンセプトは、30代以上の女性の為の、大人のウェディングドレスだった。 海に近いチャペルのある景観の美しい式場を舞台に、里沙が現役モデル最後の仕事に挑む。 撮影スタッフや監督が見守る中、純白のクラシカルなデザインのドレスから、華やかな色彩のモダンなドレスまで、夢見るようなロマンテックなウェディングシーンが繰り広げられていく。 セットや小物、場所や演出を変えて、艶やかに装う里沙の姿は、ため息が出るほど美しい。 さすがはベテランモデルだ。里沙はしっとりと落ち着いた様子で、監督に求められる表情や仕草に、次々と応えていった。 ……仕事選べば、まだまだ現役でいけんだろ。マジでもったいねえな。 関係者の囲いの外で、暁は撮影を見守りながら、心の中で呟いていた。 里沙から目を逸らし、スタッフの方をうかがうと、監督と何か話をしながら、満足そうに微笑む橘の姿が見える。里沙の花嫁姿に目を細め、ドヤ顔をしている橘に、暁は首を竦めた。 ……まあ、せいぜい悦に入ってろよ、おっさん。何でも自分の思う通りになるって思ってたら大間違いだぜ。 「祥悟さん、どうですか?これで」 おずおずと近づいてくる雅紀に、大きな姿見で全身をチェックしていた祥悟がくるっと振り返る。 「お。いいじゃん。さっきのより絶対にそっちの方がいいよね、雅紀は。細身だから映えるしさ」 向かい合った祥悟の姿に、雅紀は目を真ん丸にして 「うわぁ……。祥悟さんこそ、全然雰囲気変わっちゃった。なんだろう……綺麗……っていうか……格好いい」 顔を赤くする雅紀に、祥悟はにやっと口の端をあげて 「ふふん。もしかして惚れちゃった‍? あ、じゃあさ、あのエロわんこなんかとっとと振って、俺と付き合ってみない‍?」 キラキラした目で悪戯っぽく顔を覗き込まれて、雅紀はたじたじと後ずさり 「やっ。惚れてないし。そんなこと言ってると、あの人……真名瀬さん……でしたっけ? 言いつけちゃうから」 祥悟は途端に口を尖らせて 「ちょっ。ここでその名前、出すなって~」 げんなりする祥悟に、雅紀はくすくすと笑って 「でも、すっごいお似合いでしたよ。祥悟さんと真名瀬さん」 祥悟は苦笑しながら首を竦めて 「まあね。あいつ、地味に見えるけど超絶男前だからさ」 「うわぁ……どさくさでお惚気言っちゃってるし……」 祥悟は笑いながらもう1度、姿見で全身をチェックして 「そろそろ時間だね。俺、先に行くよ」 「うん。……あ、祥悟さん」 踵を返してドアに向かう祥悟に 「頑張ってください、ね」 祥悟は振り返らずに手だけあげて 「雅紀、感謝してる。ほんといろいろ……ありがと」 そう言って手を振ると、颯爽と部屋を出て行った。

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