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絡まる想い。空回る心5

それがどうだ。 雅紀は俺のことは愛してなかったと嘘をつき、よりにもよって早瀬暁を好きだと言った。 しかも、早瀬暁は……秋音だった。父さんが若い愛人に産ませた、俺の……弟だ。 もう何が何だか分からない。あいつは何故、そのことを黙っていた?俺が秋音を探せと依頼した時、どうして自分だと言わなかった?早瀬暁などという偽名で、雅紀や俺に近づいてきたのは何故だ? ……一体、何を企んでいる? 貴弘はグラスの残りを一気に煽ると、ようやく上着を脱ぎ、ネクタイをゆるめた。 丸い氷の上に、震える手でスコッチを注ぎ、グラスを睨み付ける。 あいつはきっと、俺を憎んでいる。父を誘惑した穢らわしい女の息子の分際で、俺を逆恨みしているに違いない。 ……上等だ。あいつがそのつもりなら、俺にだって考えがある。祖父さんの遺言など、あいつさえいなくなればどうとでも出来る。 俺は桐島家の正統な跡取りだ。あんな男にびた一文くれてやるか。 もちろん、雅紀もだ。絶対に取り戻してやる。 「ね。暁さん。秋音さんの親友って、たつやさんっていう人?」 布団の中で、暁の胸に顔を埋めていた雅紀が、ふと顔をあげた。 「ん?ああ……そうだよ。坂本達哉。なんだお前、知ってるんだ?」 雅紀はちょっと遠くを見るような目になって 「知ってるって言っても、あんまり話したことはないかな。秋音さんと一緒にいた時に、たまに会ったりした程度で。秋音さんがよく彼の話をしてくれたんで、名前は覚えてるけど、顔はよく覚えてないかも……」 暁は雅紀の柔らかい髪を指先でいじりながら 「ふ~ん……。あのさ、雅紀。秋音ってさ、お前から見てどんな男だった?今の俺とおんなじか?」 雅紀は首を傾げて考えこみ 「うーん……。そうですね。秋音さんは……無口で物静かで。ぱっと見は近寄り難い感じなんだけど、笑うとすごく柔らかい雰囲気になって。それに頭のいい人でしたね。知識が豊富ってだけじゃなくて、頭の回転もいいっていうか」 雅紀の話を聞きながら、暁の顔はだんだん険しくなっていく。 「ちょい待て」 「……へ?」 「無口。物静か。近寄り難い。……それって俺に当てはまる要素、あるか?」 雅紀は暁の顔をじっと見て、目をぱちくりして 「うーーーん?」 「……ないのかよ」 「や、なくない、なくない。暁さんだって、黙ってたら無口で物静かだし。あ、近寄り難い感じは、あのコンビニの前。あの時の暁さん、ちょっと怖かったかも…」 「お前、何言ってんの?黙ってたら無口って、誰でもそうだろうが」 「あ、あと優しい人だった!暁さんも優しいでしょ。話すと楽しい人だったし、あーでもしゃべり方はだいぶ違うかも…」 「もういい。分かった。無理に共通点見つけなくていいぞー」 まるで小さな子供相手のように頭をぽんぽんされて、雅紀は口を尖らせた。 「や、暁さんが聞いたんだし」 「うん。そうね。つかさ、お前から聞く限りでは、俺とは全く正反対な人物像が浮かびあがるんですが?」 雅紀は眉をしかめ 「……確かに……。中身はだいぶ違うかも」 「だろ?うーん……人間って記憶失うとさ、人格まで変わっちまうもんなのかね?」 「性格とか話し方とか好みとかって、生まれつきのもの以外に、まわりの環境なんかにも、影響受けますよね。俺の高校の時の友人でいましたよ。アメリカに留学して帰ってきたら、別人みたいになってたヤツ」 暁は首を傾げ、まったく納得していない様子だ。 「そういうもんなのかね。でもさ、じゃあなんでお前は、俺のこと好きになったの?」 雅紀はまあるく目を見開き 「え……。だって」 「だって、何だよ?」 「理由なんてわかんないですよ。気がついたら、自分でもどうしようもない位、好きになっちゃってたんだし…」 ……わ……。今日のこいつの言動は、いちいち俺の心臓に悪いんだけど。 わざとやってんじゃ……ないんだよな……。 こいつ天然小悪魔ちゃんだし……。 暁は内心ため息をつくと、それ以上追及するのは諦めた。雅紀の場合は、好きになったら、それが好きなタイプってことなんだろう。 「……ね。暁さん」 「んー?なに?」 「暁さんは、明日、お仕事……ですよね?」 「あー……まあな」 「……そう。じゃあ、そろそろ寝ないと。夕べあんまりよく眠れてないでしょ?」 「まあな。あ……そっか。お前さっき寝たから、あんま眠くないんだろ?でもさ、明日はお前連れて、事務所に行くからさ。お前も寝ておいた方がいいぜ」 雅紀は暁の胸から顔をあげ 「は?……俺連れて事務所って?え。事務所って暁さんの仕事場のこと?え。探偵事務所ってことですか?」 暁はにっこり微笑んで 「そ。社長にはもう許可もらってるからさ。お前、明日は1日、俺のアシスタントだぜ。よろしくな、可愛い相棒くん」 笑いながらウィンクする暁の顔を、雅紀は唖然として見つめた。  

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