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番外編『愛すべき贈り物』208

2人に掴みかかろうとしていた橘に、にこやかに笑いながら歩み寄ってきたのは……。 「お、こ、これは。桐島家の……」 「こんにちは。橘さん。さっき監督と本館でお会いしましたよ。プレス用の写真、何枚か見せてもらいましたが……素晴らしい出来だ。時間が許せば私も是非立ち会いたかったな」 穏やかに話しながら近づいて来る貴弘に、橘は出しかけた手を引っ込めて、必死に笑顔を作り 「いやいや、わざわざご足労頂くとは……恐縮です。お父様はお元気ですかな?」 「ええ。おかげさまで。ところで……何かあったのですか?随分大きな声をあげられていたようだが?」 首を傾げ、智也と祥悟に目を向ける貴弘の視線を遮るように、橘は慌てて貴弘に歩み寄り 「いやいや。別にトラブルというほどのことでは……」 貴弘は橘をちらっと一瞥してから、祥悟の方にゆっくりと回り込むと 「ああ。祥悟くん。里沙さんとは、さっき控え室で会ったよ」 状況が分からずきょとんとしている智也の腕から、祥悟は慌ててもがき出て 「こんにちは。桐島さん。先日は美味い酒をありがとうございました」 そう言って、乱れたドレスをささっと直して艶然と微笑むと、優雅にお辞儀をしてみせる。貴弘は目を細めて、祥悟の全身をしげしげと眺め 「ああ……素晴らしく艶やかだな。流石は里沙さんの自慢の弟さんだ。ラストの演出は君に入れ替わると聞いて、男の子なのに大丈夫かな‍?と正直不安だったんだが……どうやら私の取り越し苦労だったみたいだね」 「ありがとうございます。ご期待に添えていたなら嬉しいですよ」 貴弘と祥悟のやり取りを、最初は呆然と見ていた橘が、みるみる青ざめていく。 何か言おうとして口を開きかけ、慌てて口を噤むと、険しい表情で祥悟を睨みつけた。 静かに怒りの視線を向けてくる橘を、祥悟は素知らぬ顔で無視して 「桐島さん、今日はこの後、ご予定は‍あるんですか? もし空いてるなら、先日頂いた今後のお話について……ちょっとご相談させてもらたいんですけど」 貴弘は残念そうに首を竦め 「ああ、すまない。今日はお姉さんと先に食事の約束をしてしまったんだよ。あ……もしよかったら君も一緒にどうだい‍?」 すまなそうな貴弘の誘いに、祥悟は首を竦めて苦笑すると 「いえ。俺の方は別に急いでませんから。それに……」 祥悟は、ちらっと橘の方を意味ありげに見てから 「せっかくのデートでしょ? お邪魔したら、里沙に恨まれてしまうし。どうぞ2人きりでごゆっくり」 にやりとする祥悟に、貴弘はちょっと照れたように笑って 「そうか。ではまた別の機会に誘わせてもらうよ。君の方で時間が出来たら、今度是非、私のオフィスに来てくれたまえ。それでは橘さん。私はこれで」 ひと言も口を挟めずにいた橘が、ようやく口を開けた 「あ。いや、桐島さん。里沙……いえ、あの娘とこれから食事に‍?」 顔を強ばらせている橘に、貴弘はああ……っとふと思いついたような顔をして 「そうか……。まだ貴方にお話してなかったですね。ご挨拶が遅れてすみません。里沙さんと親しくお付き合いさせてもらってます。実は……私の方の一目惚れでして。養子縁組は解消されるとうかがっておりましたが、落ち着いたら1度、養父だった貴方にも、きちんとご挨拶に伺うつもりでした」 照れたように微笑みながら言う貴弘の言葉に、橘は愕然として 「里沙……いや……あの娘と……貴方が……お付き合いを……‍?」

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