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特別番外編「君が消える日」1
「ひょっとすると……そろそろやばいのかもしんねえな…」
暁は姿見に映る自分の顔をじっと見つめて独り呟いた。
今は自分の中に眠っているもう1人の分身と、可愛い天使みたいなパートナーの雅紀。
3人の不思議な同居生活は、もう4年半になる。事情を知らない近所の人から見ると、あまり似ていない兄弟の共同生活といった感じだろうが。
同居の1年後に立ち上げた自家焙煎珈琲店「つきのかけら」も、開店当時は慣れないことだらけで、いろいろアクシデントもあったが、今ではすっかり軌道に乗って、公私共々忙しくて充実した日々を送っている。
家に帰っても、秋音と暁は2人交代で雅紀を絶賛溺愛中だ。
可愛いパートナーは共に過ごせば過ごすほど、愛しさが増す一方で、いつか倦怠期が来るなんて想像もつかない。
……のだが……。
このところ、暁の方に、ちょっとした違和感が連続で起きている。ほんの些細な、取るに足らないことばかりなのだが、身体と記憶を共有している秋音の方は、何も感じていないようなのが……気にかかる。
もともと自分の存在は、事故で記憶を失った秋音の代わりだった。こんな言い方、雅紀は泣いて嫌がるから絶対に口にすることはないが、この人格は言ってみれば「予期せぬアクシデントの産物」だった。
あのカタクリの郷で、本当は消えてしまう予定だったのだ。
……ま、実際には、消え方自体、よく分かってなかったんだけどな……。
雅紀の3つ目のお願いが、自分をこの世界に繋ぎとめた。
3人で生きるといったん決めた以上、暁としては意地でも2人を幸せにしたい。もう2度と、雅紀にあんな哀しい涙を流させたりしない…と固く心に誓っている。
……皮肉なもんだな……。絶対に消えたくねえって思ってる今になって、その可能性、出てきちまうなんてさ。
いや。本当に消えそうなのかは分からない。ただ、最初に感じた違和感は、秋音と共有しているはずの記憶の部分だった。
基本、秋音と暁は1週間周期で入れ替わって生活している。その時の状況によって、それが長くなったり短くなったりはするが、表に出ている人格が過ごした間の記憶は、互いの存在を意識し始めてからずっと、何の違和感もなく共有出来ていた。
……ところがだ。
1ヶ月ほど前から、秋音が表に出ている間の出来事の記憶が、ちょいちょい抜けていることに気づいた。
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