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特別番外編「君が消える日」3
「素敵な結婚式でしたね」
雅紀は、まだうっとりした表情で、花嫁から貰ったブーケを嬉しそうに眺めてる。
「だな。奥さんがさ、ちょっとびっくりするぐれえ可愛かったぜ。古島さん、いつの間にあんないい人、見つけてたんだっつーの」
古島の結婚式は、小さな島のチャペルがある美術館が会場で、少人数だが温かみのあるロマンティックな演出だった。
古島には身寄りがいない。相手の女性も、昨年たった1人の身内だった母親を病気で亡くしていて、招待客はごくごく親しい友人知人だけだった。
「古島さん、幸せそうでしたね。彼女を見る目がね、なんかすっごく穏やかで優しくて……。彼女さんもおんなじ目してたし」
「だな。2人とも苦労してきたんだし、きっといい家庭を作れると思うぜ。お互いを思いやれる、あったかい家庭をさ」
雅紀はブーケを頭上に掲げて、陽の光に透ける繊細な花弁の美しさに目を細めた。
出席者の殆どは、式の後のパーティーが終わると島を後にしたが、2人は海岸近くのコテージを借りていた。普段、店の切り盛りに忙殺されて、揃って休みも取れずにいたから、この機会にちょっとした休暇旅行だ。
「寒くねえか? 今日はだいぶあったかかったけどさ、陽が傾いてきた途端に、風が冷たくなったよな」
コテージの海側のテラス席に座って、海を眺めていた雅紀が振り返った。淹れたての珈琲を手に近寄ってくる暁に、ほよんっと幸せそうに笑って
「大丈夫。俺、中に結構着込んでるから」
スーツから普段着に着替えた雅紀は、なるほどネルシャツの上にセーターを重ね、分厚いダウンジャケットを着ていて、いつもより着膨れして見える。
「あ。ありがとう、暁さん」
暁が差し出すマグカップを受け取り、ふうふうしてからちょっと啜って、雅紀はまた海の方に目を向けた。
2人の店も海沿いにあって、テラス席からは海岸が見える。馴染みのある風景だが、陽の光や波の色が違って見えて、なんだか新鮮に感じた。
「うーん。いいな、波の音。すっげー落ち着く」
「うん、ほんと。平和だぁ……。いいとこですね、ここ」
「だろ? 古島さんの生まれ故郷だと。過疎化が進んじまって、すっかり寂れちまったって、古島さん嘆いてたけどさ、あくせく生きてる俺らには、ある意味贅沢なとこだよな」
雅紀は大きく深呼吸して
「うん。すっごく贅沢な空間。なんかね、余計な音が聴こえないからかな。まるで世界で2人だけになっちゃったみたいだ」
「お。たしかに。そういや前に、東北の露天風呂に初めて一緒に入った時にも、そんな風に思ったこと、あったよな…」
暁は珈琲をひとくち啜ると、ちょっと遠い目をした。
「うん。あの時は真っ暗な空に浮かぶ月が綺麗で……」
「綺麗だったのはおまえだよ、雅紀。白くてほっそりした身体が、月の光の中にぼわんって浮かび上がってさ…まるで月の精みたいっつーか……」
暁の言葉に、雅紀はちょっと赤くなって振り返り
「……たまに暁さん、すっごい夢見る乙女になりますよね」
「なんで乙女だよっ。俺はな、ナイーブで繊細なロマンティストなのっ」
口を尖らせる暁に、雅紀はくすくす笑って
「ロマンティスト……。そうかも。だから暁さん、30過ぎてる俺なんかのこと、可愛いとか天使とか言えちゃうんですね」
照れくさそうに笑う雅紀の、柔らかな笑顔が可愛い。
……んー。まあ、俺がロマンティストなのは間違いねえけどさ。こいつも相変わらず、無自覚ちゃんだよなぁ……。
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