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特別番外編「君が消える日」5
「素敵だ……ここ」
雅紀はひとしきり部屋の隅々を見て回ると、大きなベッドの上にぽふんっと腰をおろした。その表情は柔らかく微笑んでいて、さっきまでの警戒心は完全にゆるんでいる。
「女子が喜びそうな部屋だろ?」
「うん。暁さんって何気に女子力高いですよね。仙台で行った温泉宿も、女の子がすっごい喜びそうな雰囲気だったし」
……や。それは女子力高いって言わねえだろ。下心見え見えっつーの。
とは内心思ったが、顔には出さない。溢れんばかりの下心はおくびにも出さずに、スマートに紳士的に相手をその気にさせるのが、モテる男の必須条件ってやつだ。
暁はゆっくりとベッドの脇を通り過ぎ、天窓とは別の壁側の窓に歩み寄ると、カーテンを開けた。
「こっちはさ、海が見えるぜ」
ベッドに座って天井の天窓をキョロキョロと探していた雅紀は、暁の言葉に壁側の窓を見た。
「わっほんとだ。すっごい……綺麗……」
すっかり子供みたいな無邪気な表情で、雅紀は立ち上がって暁の側に駆け寄った。
陽が傾きかけた空には、雲がうっすらと茜色に染まっていた。窓から一望できる水平線は、まるで映画のワンシーンのようで、想像以上にロマンティックな情景だった。
傍らに立ち、ちょっと頬を紅潮させている雅紀の表情が超絶可愛い。暁はさり気なく雅紀の肩に手を回すと
「気に入ったか?」
「うん。素敵だ……。こんな綺麗な海、初めて見たかも」
「いつもさ、店のこと、おまえ一生懸命頑張ってくれてるだろ? だからこれは、俺からの感謝の気持ちな」
雅紀は幸せそうにふにゃんと微笑んで、暁の胸にぴとっと頭を預けた。
刻一刻と移り変わる空の表情。こんな美しい光景はこれから先、何度だって見れるだろうが、今この時に寄り添って見ることの出来る空は、一生にたった一度きりだ。
しばらくそのまま2人佇んで、黙って空と海を見つめていた。
不意にくすんっと鼻をすするのが聞こえて、暁ははっとして雅紀の顔を覗き込む。
「……っ」
雅紀の頬に、綺麗な涙が一筋つたい落ちている。暁はぎゅっと肩を抱き寄せ
「なに……泣いてんだよ……」
雅紀は鼻を啜りながら照れ臭そうに笑って、
「えへ……なんだろ。すっごい綺麗で幸せで……なんか涙、出てきちゃいました」
「ばーか。泣くなよ。せつなくなるだろ」
雅紀は指先で自分の涙を拭うと
「今でも……時々、夢みたいだなーって思っちゃうんです。暁さんと出逢えて、恋人になれて。こうして一緒に過ごせていること」
「……雅紀」
「一緒に居られるだけで、充分過ぎるくらい幸せなのに、こんな素敵なプレゼントまで貰えるなんて……。贅沢過ぎちゃうな」
「贅沢じゃ、ねえだろ」
「ふふ。幸せ過ぎて怖いって、俺、何度も思ってますよ。毎朝、目が覚めて、暁さんの顔見る度に……」
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