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特別番外編「君が消える日」6
……ばか……。んな寂しいこと、言うなって。
暁は堪らなくなって、雅紀から目を逸らして、水平線に沈んでいく夕陽を見つめた。
秋音と自分に溺愛されて、もうちょっと我儘に贅沢になってもいいのに、雅紀のこの一途な健気さは少しも変わらない。
すっかり安心して、幸せに浸りきっていても、もしかしたら夢かもしれないと、心の何処かで予防線を張っているような。
それは雅紀のこれまでの人生経験から来るものだったり、もともと持ってる気質だったりするのだろうが、そんな雅紀だからこそ、もっともっと幸せにしてやりたいと思ってしまうのだ。
……それなのに……。
贅沢なことは何も望まず、ただ側にいられるだけで幸せだと笑う雅紀の、側にいてやれなくなるかもしれない。
暁という人格の寿命が、近づいてきているのかもしれない。
……そんな残酷なことが、あるのだろうか。
「……暁……さん……?」
不安そうな雅紀の声に、暁ははっとして表情を改めた。
……今、自分はどんな顔をしていた? ばかだろ、俺。まだ起こってもいねえうちから、雅紀を不安にさせてどーすんだよ。しっかりしろって。
暁は雅紀に、にかぁっと笑いかけて
「ところでさ、天窓、何処にあるのか分かったか?」
暁の問いかけに雅紀は首を傾げ、後ろのベッドを振り返って
「う……ん、それ、暁さんに聞こうと思ってた。ベッドの上の天井にね、それらしいのなかったから……」
途端に暁はニヤリとして
「だろ? 見つかんねえよな。実はさ、仕掛けがあるんだぜ」
「仕掛け……?」
暁はドヤ顔で頷くと、雅紀の肩を抱いて、ベッドの向こう側の壁に向かった。チェストの脇のスイッチが並んでいる場所に行くと、きょとんとしている雅紀に片目を瞑って
「上、見ててみ?」
そう言ってスイッチのひとつを押す。促されて雅紀は暁の視線を辿って天井を見上げた。
ウィーン……っと音がして、白い天井だと思っていたものが真ん中で割れて、するするっと左右に開いていく。
「……っ!」
雅紀は息を飲み、ぽかんと口を開けたまま、上を見上げて固まった。天井を覆っていた白いものは刺繍入りの分厚い布で、くるくると巻かれて、両脇に丸まっていった。その代わりに現れたのは、まあるい天窓が2つ。
「……っ。窓っ」
「そ。あれさ、隠してあんだよ。すっげー凝ってるだろ?」
「……すごい……。ほんと、凄い」
雅紀はベッドの所まで飛んで行って、興味津々に天窓を見上げた。はしゃぐ雅紀の反応に、暁は満足そうに微笑むと雅紀に歩み寄った。隣に並んで天窓を見上げて
「ここに寝っ転がるとさ、ちょうど真上に丸く切り取られた空だ。このコテージの超ロマンティックなデザインさ、設計担当したのって…誰だと思う?」
雅紀は傍らの暁を見つめた。いたずらっぽいその笑顔。
「……え……誰って……。え? え? ……っもしかして……」
「秋音……つまり俺だよ。監修は藤堂設計事務所な。秋音があの事務所で、最後に担当した仕事だったんだ」
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