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特別番外編「君が消える日」8
「ちぇー…。せっかくすっげぇ洒落た演出したのにさぁ。あそこはさ、夕陽見て天窓見て、超感動うるうるでさ、2人手を取り合って愛の海原へ…っつー展開じゃねーの?」
「まだ言ってる……。愛の海原って何ですか。いいから、はいこれ、テーブルに持っていく」
キッチンの隅でいじけている暁に、雅紀はため息をついて、盛り付け終わった大皿を指し示した。
「おまえ、冷てーし。俺にちゅっちゅされて、しっかりちんこ勃ってたじゃん。だいたいさ、蹴ることねーだろ。足癖悪いっつーの」
まだグチグチ言ってる暁を、雅紀はキッと睨みつけた。
「物事には順番ってのがあるんです。暁さん、夕飯の準備すっ飛ばすと、その後キリがなくなっちゃうでしょ? せっかく市場でゲットした新鮮な食材、無駄にしたら勿体ないです」
「……ん……まあな……。それはそうなんだけどさ」
大皿を持って、しぶしぶテーブルに向かう暁の、しょぼくれた後ろ姿に、雅紀は苦笑した。
たしかに、ムード満天の演出だった。寝室を見に行こうと誘われた時点で、それだけでは済まない気はしていたが、あの思いがけない展開で、うっかり流されかけたのも事実だ。
でも、暁のこういう予定すっ飛ばしは、今までも何回もあって、うっかり流されたせいで、その後の予定がバタバタになったり、キャンセルになったこともあるのだ。いちゃいちゃは自分も嫌いじゃないだけに、一旦スイッチが入ると、どっちも止められなくなる。
雅紀はスープとサラダの皿を手に、テーブルに行くと
「んもぉ。そんな拗ねない。夕飯食べてお風呂も堪能して、その後はずーっとあの寝室で過ごせるんですよ」
皿をテーブルに置くと、椅子に座ってこっちに背を向けている暁に、後ろから抱きついた。
暁はちろっと雅紀を見た。その恨めしげな顔が…ちょっと可愛い。雅紀はふふっと笑って、暁の頬にキスをした。
「こないだ秋音さんに怒られて、また同じことしたら強制交代って言われたでしょ? せっかくの素敵な旅行なのに、暁さんはずっと、中に引っ込んでてもいいの?」
雅紀のおっとりした声と優しい吐息が、耳元を擽る。いつもとは反対のシチュエーションが新鮮で、暁はちょっとドギマギしながら
「う……。それはやだ……」
「ふふ。じゃあ、もうちょっとだけ我慢。ほら。獲れたてのお魚とお野菜、美味しそう。こういう時じゃないと食べられないんですからね。しっかり食べてお風呂に入って…その後ゆっくり過ごしましょう? ……ね?」
にこっとする雅紀の天使な笑顔に、暁は一瞬見とれた。
……うっわ。可愛いし……。っつか、こいつ最近、俺の扱い上手くなってんじゃね?
暁は誤魔化されてるなーっと自覚しつつ、デレっと表情をゆるめた。
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