686 / 691
特別番外編「君が消える日」14
……ああ……。そうか。なんだよ。そういうこと、か。
暁の心に、秋音の力強い声がしみていく。消えてしまった靄の代わりに、秋音の温かい優しい感情に、包み込まれていく。
……そうなのか。俺は、消えちまうわけじゃねえんだな。
俺は……ようやく、秋音と同じになれた。そういうこと、なんだな。
これまでも、本来の人格である秋音と、思いを通じ合わせることは出来た。それでも、秋音が表に出ている間、暁は薄い靄に包まれて隔離されていた。届きそうで届かない、もどかしい距離を感じていた。
だから不安だった。ずっと怖かった。いつかこの靄が全てを覆い尽くして、秋音にも雅紀にも完全に届かない場所に、旅立つ日が来るのではないかと。
自分が存在していたことが、遠い過去の記憶に、なってしまう日が来るのではないかと。
秋音の中に同化していくことは、自分の存在の消滅だと思っていた。
……ははっ。違うじゃん。全っ然、思ってたのと違うし。
秋音が力強く、言ってくれた言葉。
『暁は、消えない。俺が、消させない』
それは繰り返し繰り返し心を揺さぶる、鐘の音のようだった。
自分が生まれて、存在していることを、喜んでくれている彼らの、祝福の鐘の音。
……ちぇっ。叶わねえよなぁ。なんだよ? その男前なセリフは。気障過ぎるっつーの。んなこと言われちまったらさ、ジタバタしてる俺が、格好悪すぎだろ。
っつーか、んなこと言われちまったらさ、俺が秋音に惚れちまうじゃん。
嬉しいのに、なんだか無性に悔しい。うわーーーっと叫び出して走り回りたいくらい、小っ恥ずかしい。
秋音はふ……っと笑って、雅紀の顔をあげさせキスをした。
「……っん……んふぅ……」
涙でちょっとしょっぱいキスをひとしきり堪能すると、秋音は唇を外して、笑いながら雅紀に片目を瞑ってみせた。
「勝手にパニクって、世話焼かせるおバカを、今、表に放り出すからな。悪いが面倒見て、癒してやってくれ。……おい、出て来いよ」
そう言って秋音は目を閉じた。
次に目を開けると、そこには、ものすごーくバツの悪そうな顔をした暁がいて……。
「暁さん……」
「……悪ぃ……。びっくりさせて、ごめん」
まるで悪戯をして叱られるのが分かっている犬みたいに、頭の上に無いはずの耳がしょぼんと垂れて見える。
「ふふっ」
雅紀は思わず噴き出した。笑いながら涙が零れる。
噴き出されて、文句を言おうとした暁が、雅紀の涙を見て、くしゃっと顔を歪めた。
「笑うなよ~。いや、泣くな」
「……んもぉ……暁さんの、バカ」
暁はしょげた顔で、雅紀の頬にそっと手を当てて
「……だな。俺は大馬鹿もんのアホだよな。まーた独りで暴走しちまった……」
雅紀は暁の手に自分の手を重ねて
「おかえりなさい、暁さん。もう勝手に消えちゃ、ダメですよ」
「……雅紀……」
「これだけは、忘れないで。貴方がもし消えそうになっても、俺は必ず、見つけ出すから」
「……っ」
「もし貴方が、深い闇に引き摺り込まれそうになっても、俺は必ず、貴方を救い出す。絶対に独りになんか、させない。
だって俺たち、運命の恋人、でしょ?」
「……っ……雅紀~」
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!




