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君の知らない君2
「腹減ってたから一気に食ったな。駅弁なんか久しぶりだったけど、やっぱいいよな。旅行気分が盛り上がってさ」
牛肉づくし弁当とはらこ飯。どちらも半分ずつ食べて、暁は鼻歌でも歌いそうなくらいご機嫌だ。
「うん。ほんと美味しかった。寝坊した分、ちゃんと取り返した感じ」
雅紀は暁の分の空の弁当箱も片付けて、袋の中へ入れた。暁はじと……っと隣を見つめ
「でもさぁ、おまえ、あーんって、してくれなかったし」
「や。普通しないから。ここ、人前ですよね?」
「誰も見てねーし。ほっんと、ケチだよなぁおまえー」
暁のいつもの愚痴を、知らん顔して聞き流し、
「ね、暁さん。次、車内販売が来たら、俺、あのカップのアイスが食べたい」
「お。いいね~。んじゃ、俺もホットコーヒー買うわ。くぅ~。なんか実感沸いてきたな。雅紀とラブラブ温泉旅行かよ♪」
「……ラブラブは余計だし。……ってか、暁さん、声大きい」
いくら乗客はまばらとは言え、暁の声は車内中に聞こえそうなくらい弾んでいて、雅紀としてはまわりが気になって仕方ない。
暁はぶすっとして
「あのさ。前から聞こうと思ってたんだけどな。おまえ、血液型なに型?」
暁の唐突な質問に、雅紀はちょっと呆れ顔になり
「どこの女子ですか。血液型とか、暁さん気にする人なんだ?」
「別にそういう訳じゃねえよ。君、血液型なに型?とか、初々しいカップルの初デートの定番な感じしねえ?」
「初々しい……。初デート……。しかも超ベタな」
「ほらな、そのツンドラな受け答え。おまえさ、絶対、Aだろ」
「そういう暁さんこそ、絶対、Bでしょ」
「はっずれ~。俺、Oだし」
「残念でしたっ。俺、O型だし」
2人の答えが重なって、お互いに目を丸くして見つめ合った。
「えっ……うそ……暁さん、O?」
「おまえがO型?冗談だろ?」
2人の間に微妙な空気が漂う。やがて暁が苦笑して、首をすくめた。
「ははっ。やっぱさ。血液型なんてこんなもんだよな~。だいたいこんだけいろんな人間がいるのに、4つの型で性格なんか分けられるはずねえし」
「……うっそ。暁さんと俺が同じとか絶対ありえない…」
何故か相当のショックだったらしい。暁の言葉も聞こえていない様子で、雅紀は独りぶつぶつ言っている。
「だからさ。血液型性格判断なんて、あてにならないってことだろ」
雅紀はまだ腑に落ちない顔をして、しきりに首をひねっていたが、ふと顔をあげ
「あれ……そういえば、暁さん。なんで自分の血液型知ってるんです?」
「ん?あー……。事故ん時な、輸血が必要でさ、病院で調べたらしいぜ。早瀬のおじさんが教えてくれた」
「……あ……っ。そっか…」
余計なことを聞いてしまった……っと雅紀の顔に書いてある。暁はにかっと笑って
「んな顔すんな。別に聞いちゃいけない質問じゃないぜ」
「……うん。そうですよね…」
暁は雅紀の方に向き直り、周りには見えない位置で、そっと雅紀の手を握った。
「な。雅紀、俺らってさ、お互いのこと、ほとんど知らねえじゃん?ま。それは2人ともちょっと、いろいろあったからなんだけどさ。この旅行でお互いの過去、ケジメつけに行くんだよな。調べてるうちにさ、相手の知りたくない過去を、知ったりすることだってある」
雅紀の手に不自然な力が籠った。暁はそれを宥めるように、優しく手を揺らし
「だから、初めに言っとくぜ。おまえにどんな過去があっても、俺はおまえを軽蔑したり、嫌いになったりはしない。それだけは絶対に信じて欲しいんだ」
「暁さん……」
暁はちょっと眉をさげて笑い
「おまえ、変なとこ気にしいだし、悲観的なとこあるからな。あのな。おまえが話したくないこと、俺は無理に聞く気はないんだ。たださ、もし俺に話してみたいって思って、でも俺に嫌われるかもって悩んだらさ、とにかく話してみな。俺はちゃんと聞くよ。どんな過去でも、それが今のおまえを形成したもんなんだろ。それがなかったら、俺たち、もう一度会うことはなかったかもしれない。好きになったり付き合うこともなかったかもしれないんだぜ」
確かに暁の言う通りだ。過去の出来事の何か1つが、ほんのちょっとでも違っていたら、あの奇跡みたいな再会はなかった2人なのだ。
暁にまだ言えてないことはたくさんある。
ゲイだと自覚するきっかけになった事件。そこから生まれた両親との不和。元彼から受けた残酷な仕打ち。
そのどれもが思い出すのも辛い過去で、でも間違いなく今の自分を作り出した過去だ。
自分が気にしいだったり、悲観的になりやすいのも、それらの過去と無関係じゃない。傷口を見ないふりして封じ込めたままだから、中で膿んでいつまでも治らず、ちょっとした出来事に神経過敏になったり、考え過ぎたり、飽和状態になったりする。
雅紀はぎゅっと暁の手を握った。暁は同じ力でぎゅっぎゅっと握り返してくれる。
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