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君の知らない君3

「俺。こういう性格だから……そう簡単には変われないと思う」 雅紀は繋いでいる手をじっと見つめている。 「まあ、そうだよな。そんなに簡単に変われるなら苦労はないな」 「うん……。だからまた、いつのまにか独りで悩んで、ぐるぐるしちゃうかもしれない」 「うん」 「でも。少しずつでも、嫌な自分、変えていきたいから」 「うん」 「たぶん焦れったいくらいゆっくりだけど。この手……握っててもらえますか?」 暁はもう一度、しっかりと雅紀の手を握り直した。 「もちろん。こうやってちゃんと握ってるよ」 雅紀はちらっと上目遣いに暁を見て、照れくさそうに目を逸らすと、彼の肩にコテンと頭を預けた。 ……わ。ちょっとデレたぜ、こいつ。人前なのに自分から寄り添ってきたよ。く~かっわいいよなあ。なんつーか、もう、とことん癒されるっ。 暁はそっと手をまわして雅紀の肩を抱き、ほわほわの髪に顔を寄せた。同じシャンプーを使っているはずなのに、雅紀からは自分とは違ういい香りがする…気がする。肩に伸ばした手で更に髪を撫でてみた。 ……触り心地もいんだよなぁ、こいつの髪。俺のと違って柔らかくってさ。こうしてるだけでめっちゃ和むし。 「暁さん、手」 「んー」 ……髪くしゃってするのも、ちょっと病みつきになるよな。嫌がってぷりぷり怒るあの反応も、また可愛くってさ。もう毎日の日課にしたいくらいだろ… 「ね、暁さん。アイスっ」 「んー。……ん?アイス?」 すっかり自分の世界に浸りきっていた暁は、雅紀の言葉に首を傾げた。雅紀は何故か焦って手を振りほどこうとじたばたしていて、その視線の先には車内販売の売り子さんのにこやかな顔が……。 「何になさいますか?」 にっこり微笑まれて、暁は慌てて雅紀から手を離し 「おっ。あっーえーと。アイスクリーム1つ。それとビール、あとつまみに……んー……あ、その帆立の貝柱ね」 「ビール飲むんだ…」 雅紀の突っ込みに暁は振り返り、俯いている雅紀の顔をのぞきこみ 「あ、そっか。おまえも飲む?」 「や。俺はアイスでいいです」 「んじゃ、以上で」 営業スマイルで頷いた売り子さんが、オーダー品を用意している間中、雅紀は暁からすっかり体を離して窓の方を向いていた。会計を済ませて品物をテーブルに置き、ワゴンが次の客の方へ行ってしまうと、雅紀は振り返って暁を睨みつける。 「もう……。車内販売来たから手、はなしてって言ってるのに、暁さんぜんっぜん聞いてないしっ。にやにやしながら、一体何考えてたんです?」 ぷりぷりしてる雅紀に、暁はなんだか嬉しそうに笑って 「ん~?別に?それよりほれ、お待ちかねのアイスな。これさ、ミルクの味、濃厚で美味いんだよな」 「んもぉ……誤魔化してるし…」 雅紀はふくれっ面でアイスとスプーンを手に取ると、 「あ。これの会計、夕べ話した通り、オレもちゃんと払うんで、旅行費用に入れといてくださいね、暁さん」 「や。これは別にいいだろ。俺の奢りだ」 にっと笑って親指を突き出す暁に、雅紀はアイスのスプーンを咥えたまま、ぽっと赤くなった。 暁はにやにやして 「あ。おまえ今さ、俺のこと、恰好いいっ……とか思ったろ?」 「……っ、思ってないっ」 「何だよ~。素直に認めろって」 「も~。暁さんっ声大きいっっ。恥ずかしいからっ」 雅紀は真っ赤な顔で、アイスをすくったスプーンを、暁の口に押しつけた。 「ね。向こうに着いたら、すぐにホテルに直行?」 窓の外を流れる景色を眺めていた雅紀が振り返る。暁はビールの残りを飲み干して 「ん?いや、そんな慌てて行かなくてもいいぜ。チェックインは遅くなるって連絡してあるからさ。どっか寄りたいとこ、あるのか?」 雅紀はちょっと遠い目をして、 「え……。や、寄りたいっていうか…」 「何だよ。遠慮しないで言ってみ。どこでも付き合うぜ」 「たぶん……暁さん、予定してるかも?だけど……。藤堂薫建築事務所に…」 そわそわしながら呟く雅紀に、暁はにっこりして 「あーそれな。明日、藤堂社長にアポ取ってあるんだ。おまえも連れて行くって、一応伝えてあるぜ」 「えっ……藤堂さんに俺のこと?」 「ダメだったか?藤堂社長、おまえのこと覚えてたぜ。懐かしい、是非会いたいってさ」 雅紀は目を見開き 「っほんと?藤堂さん……俺のこと覚えててくれてたんだ…」 雅紀はふわっと嬉しそうに微笑んだ。その顔にご機嫌だった暁の表情が曇る。面白くなさそうな顔で、雅紀をちろっと横目に見て 「おまえってさ、アルバイトだったんだよな」 「あーうん。学費は親が貸してくれたけど、独り暮らしの生活費稼ぎたかったんで。家庭教師したりしてたら、建築科の先輩がもっと勉強になって割のいいバイトあるよって、いくつか紹介してくれた先に、藤堂さんの事務所があって…」

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