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特別番外編『ちよこれいと』2
「暁さん。お疲れ様でしたっ」
みんなに手伝ってもらって、客席の片付けを終え、古島たちを見送った雅紀が、ちょっと紅潮した嬉しそうな顔で厨房にやってきた。
暁は湯煎用の鍋でチョコレートを溶かしながら顔をあげ
「おう。古島さんたち、帰ったか?」
「うん。なんか悪かったですよね〜。かなり忙しい思いさせちゃって。後でもう1度お礼しに行かないと」
「気にすんな。バイト代は弾んだぜ。あ、そっちは俺が片付けるから、おまえ少し休んでな」
洗い物をしようとする雅紀に、暁は客席の方を指差すと、また鍋に視線を落とした。なんだか素っ気ない暁の態度に、雅紀は首を傾げ
「ううん。俺も片付け手伝うし」
「いいって。あっちで座ってな」
疲れているのか暁に笑顔はない。雅紀とも微妙に目を合わせない。雅紀は不安になって、そっと暁の側に歩み寄り
「ね、暁さん、疲れてるでしょ。片付けなら後にして……」
「大丈夫だ」
やっぱり、暁の様子が変だ。
怒ってる?
……っていうか、拗ねてる?
頑なに鍋を見つめて顔をあげない暁に、雅紀はさっきまでの高揚した気分が一気に下がってしまった。
「……暁さん。なに……作ってるの?それ、明日の準備?」
恐る恐る訊ねる雅紀の声音に、暁ははっとして顔をあげ
「なに。どーした?おまえ。なんで泣きそうな顔してんだよ」
「だって……暁さん……なんか怒ってるし……」
雅紀の言葉に、暁はバツが悪そうに目を逸らして
「別に怒ってねえよ」
「……何か……あった?こっち、忙しすぎた?」
「大丈夫だって。気にすんな」
雅紀はもじもじと両手を握り合わせて
「もしかして俺、暁さんにばっか負担かけちゃったかな。ずっと気になってたんですよね。今日はこっちの方、全然手伝えなかったし」
しょぼくれる雅紀に、暁は慌てて
「ばーか。んなこと言ってねえし。おまえはちゃんとやってくれたっての。今日は客席の方も大変だったろ」
「でも……。暁さん……目、合わせてくれないし」
上目遣いで涙目で見つめられて、暁は弱りきった顔になり
「マジで怒ってねえよ。怒ってるっつーより、落ち込んでるっつーか。や。おまえにじゃねえよ。俺は自分の心の狭さに凹んでるだけだ」
「……へ?」
きょとんとする雅紀の大きな目に、暁はうろうろと視線をさまよわせて
「や。なんでもねーし。とにかく、怒ってるんじゃねーから気にすんな」
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