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特別番外編『ちよこれいと』3

せっかく幸せそうで嬉しそうだった雅紀の表情が、完全に曇ってしまった。暁は、店を始めてからは完全に止めていた煙草が無性に吸いたくなってきて、内心舌打ちした。 ……ばかなのか。いい加減にしろよ、俺。嫉妬深いにも程があんだろ。 店の経営は順調で、暁が作るスイーツも評判はいい。雅紀は毎日幸せそうに、自分の隣でにこにこしながら仕事している。イベントも成功。店も盛況。これ以上いったい何を望むのだ。 ……だってさぁ……。雅紀がモテ過ぎるのがいけねえんだし。 スイーツ作りに忙殺されつつ、オープンタイプの厨房から客席側を見回す度に、暁は雅紀の姿を目で追っていた。雅紀は一生懸命に接客していたが、明らかに雅紀狙いの女性客たちに席に呼ばれる度に、高級そうなチョコレートの包みを手に押し付けられていて……。 揶揄い半分、本気半分の女子たちに、軽くあしらうような器用さもない雅紀は、真っ赤になったり照れたりしながら、1人1人に生真面目に懸命に応対していて、その満更でもない笑顔を見る度に、暁は内心もやもやしていた。 ……や。忙し過ぎて余裕ねえだけだろ。だから気になっちまうんだ。つまんねえこと考えてる場合かよ。 もあもあと嫉妬心が膨らむ度に、そう自分に言い聞かせて、無理矢理感情を押し込めていたのが、最後の最後に爆発した。 名残惜しそうに閉店近くまで粘っていた常連の客たちが、帰る間際に雅紀を取り囲んで、完全本気モードの告白タイムが始まったのだ。 雅紀はもちろん、相手が本気だとは思っていないから、困惑しながらも、失礼のないように1人1人に真剣に応対している。その誠実な態度に客たちは勝手に盛り上がって、雅紀の手を握ったり軽くハグしたり、もうやりたい放題だった。流石にこれ以上はマズいと思ったのか、古島が苦笑しながら上手く間に入ってくれて、客たちもご機嫌なまま帰って行った。雅紀の手に連絡先のメモをしっかり握らせて……。 その後、黙々と厨房内の作業をしている暁に、古島が帰り際、声をかけていった。 「じゃ、俺たち帰るけど。……雅紀くんと喧嘩しちゃダメだよ、早瀬」 探るような古島の顔に、暁は憮然として 「するかよ、喧嘩なんか」 「……それならいいけど。雅紀くんは悪くないからね。ただ、今後のこともあるから、もうちょっと上手なお客さんのあしらい方、教えてあげた方がいいかもね」 「だから~。分かってますって。今日はほんと、ありがとうございましたっ。マジで助かりました」 「うん。お疲れ。じゃあね」 古島の言いたいことは分かってる。雅紀は真面目に誠実に接客していただけだ。あの不器用でシャイな雅紀が、人見知りと引っ込み思案を克服して、あそこまでキチンと客の相手が出来るようになったのはものすごい努力だったと思う。誰よりもこの店の開店を喜んでくれて、なんとしても成功させたいと張り切ってくれているのだ。 それは分かる。痛いほど、分かっているのだが……。 暁は雅紀の視線を痛いほど感じながら、刻んだチョコレートの欠片を、更に湯煎用のボウルにざらざらと落とした。 ゆっくり溶けて形を失っていくチョコレートを、専用のヘラで滑らかに混ぜていく。 甘い甘いチョコレートの香りに包まれながら、苦い苦い心も、ゆっくりと捏ねて溶かしていく。 ……これで、全部だ。おーし。気持ち切り替えるぞっ。

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