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特別番外編『ちよこれいと』4
暁は表情をがらっと変えると、不安そうに眉を八の字にしている雅紀に、にかっと笑いかけ
「今さ、頑張ったおまえにご褒美作ってんだよ。俺の愛がこってり入った特製のスイーツな」
暁の突然の変わりように、雅紀はきょとんと目を丸くして
「え?えと……」
雅紀が戸惑うのも当然だ。暁は心の中で雅紀に謝りながら、人差し指をくいくいっと曲げて
「見てみ?チョコレート。綺麗に溶けてるだろ?」
雅紀はまだちょっとおどおどしながら、暁のすぐ側まで来て、ボウルの中身を覗き込んだ。
「わぁ……」
ダマもなく、滑らかに溶けたチョコレートは、暁のヘラで優しく撫でられて美しい艶を纏っている。特有の甘いカカオの香りに、雅紀は鼻をくんくんさせて
「いい香り。美味しそう。え、暁さん、これでトリュフとか作るの?」
「こんだけあったらトリュフも作れるな。とりあえず、今から作るのは、おまえの好きなガトーショコラだ。手伝ってくれるか?」
雅紀はぱーっと笑顔になり、目をキラキラさせて
「うん、もちろんっ。あ、じゃあ俺、何したらいい?」
「おう。んじゃ、まずは卵をさ、卵黄と卵白に分けてくれるか?卵黄はチョコに混ぜる。卵白はメレンゲだ。レシピは簡単なんだけどさ、卵黄混ぜるとチョコが固まっちまうから、スピード勝負だぜ」
雅紀はこくこく頷くと、慌てて冷蔵庫に飛んでいった。
「牛乳も取ってくれ。あ、慌ててひっくり返んなよ」
雅紀は真剣な顔で暁の言う材料を揃えると、卵を黄身と白身に分け始めた。この作業、お菓子作りを始めたばかりの頃は、不器用な雅紀がかなり苦戦していたが、今ではすっかり慣れて、手際良く出来るようになった。
暁は卵以外の材料を計量して揃え、型の準備をする。
お菓子作りも他の料理と同じで、1人で作るより手伝ってくれる人間がいると、格段に作業が楽になる。
雅紀とはもう何度もこうして一緒にお菓子作りをしてきたから、次に何をしたらいいかお互いに分かっていて、共同作業はスムーズでかなり楽しいのだ。
自分の情けない態度のせいで、萎縮してしまっていた雅紀が、楽しそうにいきいきとした表情になってきて、暁はほっと胸を撫で下ろした。
「わ。綺麗に膨らんだ」
オープンから慎重に取り出したガトーショコラは、ぷっくりと膨らみ、焼き色も絶妙だった。
はしゃぐ雅紀に、暁はドヤ顔をしてみせて
「これな、この後ぷしゅーってしぼんでいくぜ。で、あの特有の割れ目が出来るんだ。よっしゃ。大成功。後は網の上でしばらく冷ますぜ」
型ごと網の上に置くと、暁は使った器具を水に浸けて
「集中して疲れたろ?ご苦労さん。少しあっちでひと休みしようぜ」
わくわくしている雅紀を連れて、厨房から客席に移動した。
先に椅子に腰を降ろすと、両手を差し出して
「ほれ、来いよ」
雅紀は途端にもじもじして、顔を赤くした。
「え……だって……ここ、お店です」
「他にだーれもいねえだろ?いいから来いって」
甘えるように広げられた暁の両手に、雅紀はおずおずしながら近づいて、ぽすんと暁の胸に飛び込んだ。
暁はその華奢な身体を抱き締めて
「さっきはごめんな」
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