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特別番外編『にゃんにゃんにゃんの日』3

熱い吐息を撒き散らしながら、雅紀の唇と舌がくちゅくちゅと蠢く。こんなことやってる場合じゃないと焦っているのに、雅紀が纏っている強烈な色香にあてられて、甘い濃厚なキスに腰砕けになりそうだ。 うっとりと蕩けた表情。潤んで煌めく大きな瞳。全身から立ちのぼる甘くて妖しい香り。 普段、雅紀を抱いていても、滅多にはお目にかかれないような、とびきり色っぽくて発情しきった、天然小悪魔エロ可愛天使が降臨している。 ……どこで……スイッチが入った‍? 本当にまったく訳が分からない。午前中、暁と過ごしていた時も、暁はいつもの調子で隙あらば雅紀にいちゃこらを仕掛けていたが、雅紀はいつもの恥じらいツンを盛大に発揮して、暁のエロ攻撃をことごとくかわしていた。秋音になってからも、普段と特別変わった様子はなかったのだ。 ……まさか暁のやつ、夕食に変なものでも仕込んだのか? 若干パニックになっている秋音は、ふとそんな疑惑にかられたが、よく考えれば暁の思考と記憶は全て秋音も共有しているのだから、暁が自分に内緒でおかしなことを出来るはずがない。 ……落ち着け。思い出してみろ。雅紀が急にエロモードに突入する、何かきっかけがあったはずだ。 今日、暁と秋音が雅紀に贈ったプレゼントは、洋服と財布。普段からあまり物を欲しがらない雅紀は、暁の選んだ服も秋音が選んだ財布も、「すごい。俺の好みぴったしですっ」とすごく喜んでくれていた。 ……ん?プレゼント……‍? 雅紀のおねだりキスに翻弄されながら、秋音は必死にあれこれ原因を探っていたが、不意に何かが引っかかった。 ……そうだ。プレゼントだ。 雅紀が今日受け取ったプレゼントは、暁と秋音からのものだけだ。だが、夕食の前に、雅紀が話していた。 「あのね、秋音さん。昨日、お店の材料足りなくなって、秋音さん買い出しに出掛けたでしょ?あの時、珍しいお客さんが来たんです」 「珍しい客‍?」 「うん。何回来てって誘っても、俺は絶対に行かないって言ってたくせに」 雅紀はふふふと嬉しそうに笑った。 「へえ。誰だい‍?」 「あのね。祥悟さんです」 それを聞いた時、秋音も正直、意外だった。 橘祥悟は暁の昔のセフレの弟で、彼らと接する時はいつも暁が表に出ていたから、秋音自身は接したことがない。だが、暁を通して祥悟の人となりや、暁や雅紀とどんないきさつがあったかも知っている。 意地っ張りでプライドの高いあの青年が、わざわざこんな遠い田舎のカフェまで、暁と雅紀のいちゃいちゃぶりを見に来るとは思えなかった。 「へえ。本当に珍しいな。でも俺が帰った時はもういなかっただろう」 「うん。祥悟さん、お店に来たことは暁さんには内緒にしてって。でもね、俺に誕生日プレゼント、くれたんです」 雅紀はそう言って、テーブルの下から高そうな化粧箱を取り出した。中身はチョコレート。 「こないだのバレンタインと、俺の誕生日祝いを兼ねてって」 「凄いな。なんだか随分と高級そうなチョコレートじゃないか」 雅紀はこくこく頷くと 「そうなんです。どこかの百貨店のバレンタインイベントで手に入れたって言ってて。俺、気になったからこのお店のロゴ、ネットで検索してみたんですよ。そしたら、ベルギーのすっごい有名なショコラティエでした」 甘い物に目がない雅紀は、とっても幸せそうにチョコレートを見つめてむふむふしている。秋音は微笑んで 「よかったな」 「うん。チョコレートも嬉しいけど、俺の誕生日、わざわざお祝いに来てくれたっていうのが、俺、すっごく嬉しくて」 「そうだよな。あの祥悟くんが、だもんな」 雅紀はふにゃんと笑うと、箱の中のチョコレートを嬉しそうにじっと見つめた。 「ふふ。おまえ、目がハートマークになってるぞ。今、珈琲を淹れてきてやるから、食べてみろよ」 秋音が促すと、雅紀は顔をあげ 「これね、俺よく分かんないけど、ポリなんとかって成分が、身体に凄くいいらしくて、夕食の前に1粒と、寝る前に1粒食べるといいんだよって、祥悟さん教えてくれたんです」 「へえ。そうなのか。じゃあ珈琲と一緒はまずいのかな?」 「うーん……。分かんないけどせっかく教えてもらったから、祥悟さんの言う通りに食べてみます」

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