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特別番外編『にゃんにゃんにゃんの日』4
「そうか。あのチョコレートか」
秋音は思わず雅紀の唇を離し、呟いた。ちゅぽんっと間抜けな音がして、突然唇を外された雅紀は、もどかしそうにもじもじしながら、うるうると涙目で秋音を見つめて
「んーぅ……あきと、さ、もっとぉ……」
きゅうっと腕を掴んでくる、雅紀の指の力が強い。これは絶対に体調不良なんかじゃない。前に瀧田に変な薬を使われた時と、同じような状態になっているじゃないか。
「雅紀。祥悟くんからもらったチョコレートな」
「んぅ?」
「食べたのか?食事前に」
雅紀はくすんくすんと秋音の腕に顔を押し付けながら
「ぅん……たべたぁ」
……やっぱりか。
迂闊だった。暁に内緒で店に来たという祥悟。暁に面と向かってお祝いを言うのは癪に障るのかもしれないと、勝手に解釈していたが、あの気まぐれな青年が、単に雅紀のお祝いをしに来ること自体がおかしかったのだ。更には怪しげな効能と食べ方まで指示されたチョコレート。雅紀があんまり嬉しそうにしていたから、ついうっかり軽く流してしまったが、考えれば考えるほど怪しいじゃないか。
「雅紀、食べたのは1個か?」
「ふぅ?んぅ……さっき、もういっこ」
秋音は眉を寄せると、縋りつく雅紀の手を優しく宥めながら外して
「雅紀。ちょっと待ってろ。すぐ戻るからな」
秋音は雅紀をソファーに残すと、慌ててスマホを取りに行った。祥悟のアドレスを呼び出して電話をかける。
そう簡単には繋がらないかと思っていたが、コール3回目であっさりと相手が出た。
「もしもし?」
「あ。暁くん?早かったね〜電話。どう?君の仔猫ちゃんは可愛くなった?」
「チョコレートに何を入れたんだ?」
祥悟は電話口でくすくす笑いながら
「うわ。バレるの早いなぁ。さすが元探偵。察しがいいよね」
「御託はいい。何を入れた?」
「んー。別にそんな焦んなくても大丈夫。ちょっとした媚薬だよ。常用性も中毒性もない、すっごく軽いヤツだからね。俺もたまに使ってるけど、効き目は物足りないぐらいだし?」
秋音は舌打ちすると
「分かった。後遺症なんかは出ないんだな?」
「え~~出ない出ない。もともと市販でも売られてる漢方薬の成分みたいだし?ま。雅紀は素直だから、俺より効き目出るかも?だけどね」
祥悟のあっけらかんとした言葉に、秋音はだんだんムカついてきた。暁を呼び出してガンガンに文句を言ってやりたいところだが、今は雅紀のケアをしてやる方が優先だ。
「時間が経てば効き目は消えるんだな?」
「うん、そーね。1粒で2時間ぐらいじゃない?」
「そうか。祥悟くん、君、今度ゆっくり会って話をしような」
「は?」
まだ何か言っているようだったが、秋音は一方的に電話を切ると、スマホを放り出して雅紀の所に駆け戻った。
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