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ひと恋染めし春のつき5

心配そうに顔をのぞきこまれ、額に手をあてられて、ますます顔が火照った。 「大丈夫っ。熱なんかないから」 「いや、だっておまえ、顔赤すぎんだろ…」 雅紀は手を伸ばし、暁の顔を両手で包んで 「ん……ちゅっ…」 素早く唇を押し当てた。急いで放すと、呆気にとられ目を丸くしている暁と目が合った。 「な……に……どした、おまえ?」 「や……だって……暁さんの浴衣姿……格好いい……から…」 思わず言ってしまった言葉に、暁の頬が嬉しそうに緩む。腰に手をまわされ、ぐいっと引き寄せられた。 「なんだよ……また惚れ直した?」 照れて目を逸らしながら、でも素直に頷くと、暁はますますにやけて、 「ばーか……このタイミングで、んな可愛いこと言うなって。もう飯、きちまうだろ」 囁いて唇を押し当ててくる。雅紀はいつも以上にドキドキしながら口付けに応えた。 『ピンポーン』 案の定、部屋のチャイムが邪魔した。暁は名残惜しげに唇を放し 「続きは後で……な?」 にっと笑うと、雅紀の頭をくしゃっとしてから座卓の方へ向かった。 卓上に次々と並べられていくひと皿ひと皿に、暁のテンションが上がっていく。春の桜などをイメージした前菜盛り合わせ。可愛らしい梅の形のお麩の浮いた季節のお吸い物。地場野菜を使った煮物や天婦羅。仙台牛のステーキ。三陸海の幸のお造りと手毬寿司。 どれも盛り付けがが美しくて可愛らしくて、なんだか箸をつけるのが勿体ない。 雅紀が箸を手にして迷っていると、暁は笑いながら 「ほれ、食おうぜ。こいつら全部美味しく食べて貰いたくて、綺麗に盛り付けられてんだぞ。お、これ美味そうっ」 暁は躊躇うことなく、まずは前菜の皿から手をつけ始めた。 「この後、まだ炊き込みご飯とデザートまであるぜ~」 「う。……食べたい……けど……もう無理。俺、ご飯はパスかも…」 「だよな~。オレもご飯ものは断念だ。くっそ~悔しいなあ。でもデザートは絶対食いたいし」 じたばた悔しがる暁に雅紀がくすくす笑ってると、給仕をしてくれている仲居さんが 「でしたら、炊き込みご飯はお夜食用に、おにぎりにしてお持ちしましょうか?」 嬉しい提案に暁の目がきらきら輝いた。 「えっ。いいんですか?」 「ええ。食べきれないお客様が結構いらっしゃるんですよ。ここの炊き込みご飯は、地元の清流で大事に育てたお米を使っておりますんで、是非召し上がって頂きたいんです」 「へえ~。んじゃ食べないと損ですね。是非っ。おにぎりでお願いします」 「かしこまりました。では先にデザートの方をお持ちしますね」 仲居さんが部屋を出て行くと、暁はよっしゃーっとガッツポーズをして 「よかったなっ。これで心置きなくデザートが堪能出来るぜっ」 暁のあまりのはしゃぎぶりに、雅紀は噴き出して 「もうっ。暁さん、食べ物のことになるとまるっきり子供みたいだし。でも良かった。炊き込みご飯が食べられないなんて、俺もすっごく残念だったから」 「だろ~。夜食ってことはさ、ひと風呂浴びて、ちょっと運動して、その後、だよな?」 「……ちょっと運動……?」 暁はじりじりと雅紀ににじり寄り、 「そ。まずは軽くな。や、おまえが激しくがいいなら、俺、もちろん頑張っちゃいますけど?」 雅紀は嫌そうな顔をして、暁からじりじりと離れ 「暁さん……。ますますおっさん度、あがってるから。その顔、スケベ親爺そのもの」 「おいこら。おまえもツンドラ度増してんぞ。あれ~?さっき俺の浴衣姿にぽおっとなってたのは誰だっけなあ?」 「なってません。ってか、暁さん、離れて。デザート来ちゃうから。あっだめっ、引っ張らないっ。帯ほどけちゃうってば」 暁念願のデザートプレートは、アールグレイレアチーズケーキとレモンパウンドケーキ、ベリーたっぷりのプリンアラモードがワンプレートに可愛らしく盛り付けられていた。 暁はレアチーズケーキがいたく気に入ったらしく、早速レシピをシェフに聞いてもらっている。 「ここのパティシエって、仙台の駅前に店があるんだってさ。明日早速行ってみようぜ」 綺麗に片付けられた座卓で、食後のコーヒーを飲みながら、上機嫌で話す暁の表情が可愛すぎる。雅紀はコーヒーをすすりながら、ほわほわと幸せいっぱいに微笑んだ。 「さてと。もう少し腹が落ち着いたらさ、露天風呂、入ってみようぜ」 「暁さん、あんまりお酒飲まなかったのって、もしかしてお風呂の為?」 食前酒だけでほんのり酔って、ほよんと首を傾げた雅紀に、暁はにやりとして 「もちろん。酒はいつでも飲めるからな。料理もデザートも風呂もおまえも、素面で心ゆくまで堪能したいじゃん?」 「や、俺は余計だし…」 顔をしかめる雅紀の腕を、暁はぐいっと引き寄せて 「ばか言え。今日のメインはおまえだから」 言いながら後ろから抱き締め、雅紀の細いうなじに唇を押し当てた。

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