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第42章 春月夜1※

敏感な首の後ろに暁の熱い吐息がかかり、雅紀はピクン……と震えて首をすくめる。 「……ぁ……っん…」 「ん。いい声」 囁かれてぞわっとなる。後ろから回された暁の手が、浴衣の前合わせからするっと忍び込んだ。 「浴衣ってさ、こういうとこがすごく無防備だよな」 耳元で囁かれ、それだけでぞくぞく感じるのに、暁の悪戯な指が素肌をまさぐり、胸の飾りをすっと掠めた。 「あっ……っ」 首筋に吸い付かれる。ザラッとした熱い舌の感触。もじもじと動く下半身を、暁の両足が羽交い締めにしてくる。指が胸の尖りを摘みあげ、こりこりと擦られた。さらにもう一方の手が裾を割り、弱い内腿を撫でる。 「やっだめ……暁さん…っ。ぅんっ……露天風呂……はいるっ…て……ぁっ」 「入るよ。もちろん。おまえの酔いがもうちょい冷めたらな」 暁の大きな手が肌の上をさわさわと這い回る。触れられた場所がじわじわと熱を持つ。襟を抜かれ顕になった項に暁がちゅっと吸いついた。滑らかな白い肌にくっきりとついた吸い跡が艶かしい。 ……やべっ……めっちゃ色っぽいっつの。 感じてきているんだろう。肌がほんのり桜色に染まり始めた。ひょいと顔をのぞきこむと、雅紀はきゅっと目を閉じて、与えられる悦に必死で声を殺している。 白いシャツ1枚の時も頼りなげな色香があるが、浴衣姿はまた独特の危うさがある。 帯ひとつで守られた柔肌を、少しずつ肌蹴させていく行為には、ちょっと背徳的な歓びもあって、かなりクる。 ……これじゃあ、スケベ親爺って言われても反論できねーじゃん。でもそそられちまうよな……。 つんと突き出てきた乳首を指先でなぶりながら、裾を割った手でトランクスの上から雅紀自身に触れた。やわやわと膨らみを揉むと、雅紀はあっあっ……と小さく喘いで身を捩った。 掠れた低い喘ぎ声に、ますますそそられる。首筋も頬も目元も耳もうっすらピンクに染めて、切なげに声を堪らえる雅紀は、壮絶に艶っぽい。 ……だめだろ。このまんまじゃ、風呂より寝室に連れ込みたくなっちまう。 暁は熱い吐息を吐き出すと、羽交い締めにしていた両足を外し、もがいて逃れようとする雅紀を、ぎゅっと後ろから抱き締めた。 「風呂、行くか……?」 自分の声が掠れているのに気づいて、内心苦笑する。雅紀は抱き締められたまま、声もなくこくこくと頷いた。 暁は項にちゅっとキスを落とし、ようやく手を離して立ち上がった。解放された雅紀がもじもじしながら浴衣の前を慌てて直す。片方の肩が剥き出しになり、裾もすっかり乱れてしまって、どうしたらいいのか途方に暮れている。恥ずかしそうに前屈みになっている雅紀の帯を、暁はしゅるっと解いて 「結び直してやるよ。ほら、立ってみ」 雅紀は前を手で掴み合わせながら、赤い顔で立ち上がった。きっと睨みあげてくる目が情欲に潤んでいて、まったく迫力がない。 「あき……らさん……の、ばか……ぁ」 消え入りそうな声で悪態をつく。暁は首をすくめ 「おまえが色っぽすぎるのがいけねえの」 よろけている雅紀を支えながら、浴衣を着付け直し帯を締める。ちょっとふくれっ面の雅紀の手をひいて庭に出た。 しんと静まり返った庭は、雑木の下から柔らかいライトで照らし出されている。さわさわと頬を撫でる風は、向こうにいた時よりもまだちょっと冷たい。 「寒くないか?」 傍らの雅紀の顔をのぞきこむと、赤い頬がまだぷくっとふくれていた。 「寒く、ないです」 「んな怒るなって。見てみ。綺麗なお月さんだぜ」 促されて上を見上げると、木の枝の隙間から見える月は、青味を帯びてまんまるで。 感嘆のため息を洩らし、うっとりと月を見上げる雅紀の肩にそっと腕をまわした。 「子供の頃、自分の部屋の窓から、こうして月を見るの、好きだったな……。星空も」 呟く雅紀の視線が遠い。暁はちらっと雅紀の横顔を見て 「ふ~ん。おまえってさ、1人っ子?」 「うん。だから小さい頃から自分の部屋があって、1人で寝てた。両親は高校の教師で。小学生の時から鍵っ子で。お兄ちゃんやお姉ちゃんがいる友達が、すっごく羨ましかったな」 「そっか……。1人は……寂しいよな…」 雅紀はこくんと頷くと、暁の顔を見上げ 「暁さん……あ、…秋音さんも、1人っ子だったんです……よね」 「んー。俺、昔おまえにそう言ってた?」 「うん。きょうだいはいないって。お母さんとずっと2人暮らしだったって。高校卒業直前に、お母さんが車の事故で……。それからは1人で生きてたって。あ、でも彼女さんと一緒に暮らし始めてからは、独りじゃなくなったって……言ってて……」 だんだん声が小さくなり、俯いてしまった雅紀の頭を、暁は優しく撫でて 「秋音は家族に縁、ないよなあ。まるで独りになる運命みたいに。だから俺、過去を忘れちまったのかな。寂し過ぎて、そんな孤独な人生が、嫌だったのかもな」 淡々と話す暁の声が、穏やかすぎて切ない。

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