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傷痕7

また涙が滲みそうになって、雅紀は唇を噛み締めた。 あんなに泣いたのに、涙はそう簡単には涸れないものらしい。 もう一度、冷たい水で顔を洗い、ハンカチで拭うと、雅紀は自分の顔を鏡で見直してから、暁のもとに向かった。 「おう。遅いから様子見に行こうかと思ってたんだぜ」 告白する前と少しも変わらない、温かい笑顔の暁がそこにいる。雅紀は心から感謝しながら、暁に微笑み返した。 「んじゃ、行くか。ここから近いのって牛兵衛だったっけ」 「うん。歩いて5分ぐらいかな」 雅紀の笑顔にほっとしたように、暁は雅紀の頭をくしゃっとすると、並んで歩き出す。 封じ込めていた感情と一緒に、暁に全てぶちまけてしまえたことで、気持ちが驚くほど軽くなっていた。 「うっほ~。美味そうっ」 暁が注文した肉1.5倍の牛タン定食が運ばれてきた。テールスープと麦めしと漬け物のついた定番品だ。炭火で焼いた牛タンは思ったより厚切りで、香ばしい匂いが食欲をそそる。続けて運ばれてきた牛タン定食が雅紀の目の前に置かれた。雅紀は鼻をくんくんさせて 「いい匂い。急にお腹すいてきたかも」 「なあ?だからおまえも、肉増量の方にしろって言ったんだよ。まあ足りなかったら、肉だけ追加すればいいさ。食おうぜ」 雅紀は両手を合わせてから、箸を取り早速牛タンをひと切れつまんで齧ってみた。噛むと意外に柔らかくてジューシーだ。暁は豪快にひと切れ丸ごと口に放り込むと、もぐもぐしながら麦めしの椀を持ち上げる。 「あっちにも仙台の牛タンの店ってあるけどさ、やっぱ本場の方が美味い気がするな」 「ふ~ん……そうなんだ…」 「おまえさ、もしかして牛タン食うの初めて?」 物珍しそうに麦めしや肉をいちいち観察しながら、恐る恐る口に運ぶ雅紀を見て、暁は首を傾げた。 「え?……あー……うん。実は初めて……。牛タンって……牛の舌……でしょ?なんかちょっと怖くて食わず嫌いしてて」 暁は驚いて目を見開き 「まじ?もしかして苦手だったのかよ。それ、先に言えって~」 焦る暁に雅紀も慌てて首をふり 「や。でも食べてみたら美味しかった。俺、もっとぶよぶよしたもの想像してたから、ちょっとびっくり」 「ほんとか?無理すんなよ?」 雅紀はにっこりして、もうひと口齧ると 「見た目分厚くて固そうなのに柔らかいし、すっごく美味しい。暁さんが牛タン牛タン言ってた理由が納得出来た」 「だろ?美味いんだよ、牛タン。桜さんから渡されたお土産リストにもさ、一番最初に書いてあるぜ」 「え。お土産リストなんかあるんだ」 「そ。牛タンの他に萩の月だろ、伊達小巻だろ、あとずんだもちに、笹かまぼこ、三色最中にくるみゆべしに生どら焼きだと」 暁が財布からメモを取り出し読み上げると、雅紀は笑いだした。 「凄いな。そんなにたくさん?買うのはいいけど、持って帰るのにバッグがもうひとつ必要かも」 「いやいや、全部は買わねえよ。とりあえず牛タンと萩の月は決定だけどな。お。肉なくなっちまうぜ。ひと皿追加するか?」 「うーん。どうしよっかな…」 「食いきれなかったら俺が食うし。せっかく仙台来たんだからさ、たっぷり食って帰ろうぜ」 「うん。じゃあ、ひと皿追加で」 暁はいそいそと店員を呼ぶと、一人前の牛タンの他に麦めしのお代わりも頼んだ。 店を出た後、銀杏並木通りをゆっくり歩く。途中、古道具屋や古本屋をのぞいたりしながら、広瀬川近くの大きな公園に向かった。 ここの桜はホテル近くの桜並木よりも、だいぶ開花がすすんでいた。8部咲きといったところだろうか。 夜にはライトアップも予定されているようで、立ち並ぶ屋台が、開店前の仕込みをしていた。 暁はベンチに荷物をおろすとカメラを取り出し 「おまえと2人の写真が欲しいな」 バッグから簡易の小さな三脚を出して、ちょうど良さげな台をキョロキョロと探す。 「それ、三脚?なんか変な形…」 「面白いだろ。この部分が全部自在に曲げれてさ、柵に絡みつかせたり出来んの。たださ~デジイチ重いからいまいち安定感ねえんだよな」 四苦八苦してどうにかカメラをセットすると、雅紀を立たせて位置を確認し、セルフタイマーを押す。 「いい顔しろよ」 急いで雅紀の横に並んで、カメラを指差したところでシャッターがおりた。 「おいっ。今のはだめだめだろ~」 カメラの所に戻り、液晶で確認した暁が爆笑してる。 「なんだこりゃ?セルフってそういや俺使ったことねえし。これ、どうやったら上手く撮れんだ?」 カメラを見ながら暁が首を捻っていると 「シャッター……押しましょうか?」 40代ぐらいのカップルの男性の方が、笑いながら声をかけてきた。 「あ。押してもらえますか?助かります」 「僕もカメラやるからだいたい分かるよ。どうせなら桜バックにして撮りたいよね?」 

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