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時の迷路2※

雅紀は暁の顔をもう一度のぞきこみ、安堵のため息をついた。 「ごめんなさい……俺……取り乱しちゃって…」 「うん。もう落ち着いたみたいだね。じゃあ、俺は部屋に戻るから。君も疲れないように程々にな」 「はい。ありがとうございました」 藤堂は雅紀の肩をポンポンと叩くと、部屋を出て行った。 雅紀は暁の額のタオルを外すと、もう一度絞り直してまた額に乗せた。 ベッドの脇の椅子に腰掛け、暁の手をそっと握る。 さっき頭を痛がる前、暁は自分に何を聞こうとしたんだろう……。 暁は何かを必死に思い出そうとしているような目をしていた。 雅紀は暁の手の甲に優しくキスを落とすと、そのまま寝顔を見守った。 うっすらと開いた唇に、誘われるようにキスを落とす。あまやかな吐息が混ざり合って、触れるだけのキスがだんだん深くなる。 手を伸ばして胸の尖りをつまみ、指先で挟んでくにくにすると、震えながら低く掠れた喘ぎ声をあげた。 この声は媚薬だ。聞いているだけで下半身が疼く。 唇を下に滑らしていき、既に赤く熟れて、ぷっくり飛び出た胸の果実に吸い付いた。 滑らかな肌は独特の甘い香りがして、感じると桜色に染まっていく。 乳首を甘噛みしながら舌で転がすと、ピクピク震えながら、可愛い声で鳴いた。 勃ちあがりかけた自分のものに、細い指が絡みつく。いつのまにか自分の前に跪いた相手が、小さな口を開いて、既に硬くなり始めたペニスをぱくんとくわえた。 指と唇と舌が絡みつく。熱い粘膜に包み込まれて、そのあまりの気持ちよさに、思わず呻き声が出た。 尻の奥で密やかに息づく蕾を、指先で探る。指を突き入れると、狭いのに柔らかくて、きゅうきゅう吸い付いてきた。 完全に勃起した怒張をゆっくり挿入していく。押し戻すような抵抗の後、引きずりこまれるような複雑なうねりに翻弄された。 脳みそが蕩けるような快感が、次々に襲いかかる。 組みしく身体は、いやらしくて綺麗だ。 気持ち良すぎて腰が震えた。 ああ……たまらなく、いい。 相手の感じている顔を見ようとのぞきこむと、潤んだ瞳と目があった。 ……っ…! 唐突に目が覚めた。 痺れるような快感の余韻が、まだ全身に残っているような気がする。 どきどきしながら、目だけ動かして周りを見る。 ベッドの脇の椅子に座って、自分の側で突っ伏して眠っているのは……雅紀だ。 さっき夢の中で、自分が抱いていたのは……雅紀だった。 ……やっぱり俺は……こいつのことを… 好きなのかもしれない。 雅紀は男だ。 俺にはそっちの性癖はなかったはずだ。 そして雅紀にも、おそらくそっちの気は……ない。 藤堂にあんなにあからさまに言い寄られていても、気付きさえしなかったヤツだ。 そういえば大学の頃も、雅紀に気がある男がいるらしいという噂を誰かが口にした途端、珍しく酷く嫌そうな顔をして、噂話を拒絶していた。 俺がこんな邪な気持ちで見ていると知ったら…… 雅紀はおそらく、ショックを受ける。 ……軽蔑されるかもしれないな。いや、きっと軽蔑される。気持ち悪いと思われるかもしれない。 純粋に一途に敬愛してくれている雅紀に、嫌われるのは切ない。あの真っ直ぐな親愛の目が、嫌そうに歪むのを見てしまったら、自分は立ち直れない気がする。 だいたい、いつから俺はこいつをそんな目で見るようになっていたんだろう。 向こうで再会した時に……? 記憶喪失になると、性癖まで変わってしまうものなのか? ただ好きなだけならまだしも、あんな濃厚な性夢まで見てしまうなんて……重症だ。 藤堂の邪な誘いの手から守ってやりたいと思っていたのに、俺自身がこいつをそんな目で見ててどうする。 暁は頭を抱え込んで項垂れた。 入院して、満足に自慰も出来ない状態だったから溜まっているのだ。俺はきっと欲求不満なのだ。 雅紀の顔をちらっと見てみた。 綺麗な横顔が、穏やかにすぴすぴと寝息をたてている。 あどけない寝顔だった。実際の年齢を聞いてもまだ信じられない。まるで天使みたいな……。 さっきの夢の中の雅紀の妖艶な表情が、目の前の寝顔に重なる。 ……っ…。 暁は慌てて目を逸らし、おさまるどころか更に反応してしまった自分の股間を、手で押さえた。 ……まずいだろう。非常にまずい。俺は本気でこいつに欲情している。 ふいに雅紀が何かむにゃむにゃ言いながら、一瞬うっすらと目を開けた。 暁は全身を硬直させ、息を殺して雅紀の様子を伺う。 雅紀はまた目を閉じて、うっすらと唇を開いたまま、無邪気に眠ってしまった。 暁はごくりと唾を飲み込む。 ……あの小さな口が俺のものを……。 ダメだ、いけないと思っているのに、雅紀の唇から目が離せない。 下着の中に手を入れて、興奮しきった自分のものを直に握った。 すぐそばにある雅紀の唇を見つめながら、そろそろと自分のものを扱く。 雅紀の赤い舌が、ちろちろと括れを舐める感触まで、容易に想像出来てしまった。

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