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時の迷路3※

一度こうなってしまうと、出さなければなかなかおさまりがつかないのが、男の哀しい性だ。 暁は痛いほどはりつめた自分のものを、ゆっくりと扱きあげた。理性とは裏腹に妄想はどんどんふくらんでいく。 狭くて熱い雅紀の中に、突き入れていく感触を想像しながら、暁は眉を寄せ、手の動きを速めた。 ……っっ! 辛うじて呻き声は出さずに済んだが、下着の中がじっとりと湿っている。イッた瞬間、痺れそうな快感のすぐ直後に、酷い罪悪感と後悔が一気に押し寄せてきて、暁は詰めていた息を吐き出し、肩をガックリ落とした。 ……なに…やってるんだ、俺は…。情けない。 恐る恐る様子を伺うと、雅紀は何も気づかずにすやすやと眠っている。暁はほっと安堵のため息をもらした。 暁のベッドの脇で椅子に座ったまま、うたた寝してしまった。ごそごそと身じろぎする気配に目を覚ますと、暁は何故か酷く慌てた様子で 「ま、雅紀、寝るならちゃんと自分のベッドで休め。そんな寝方していたら、風邪をひく」 「あ……ごめんなさい……俺、寝ちゃってました?」 雅紀は寝起きのぽやんとした顔で首を傾げ 「もう頭痛、大丈夫ですか?熱は…」 「痛くない。熱もない」 「でも、汗かいて気持ち悪いんじゃないですか?俺、身体拭きますよ」 「……っいいっ。そんなことは、じ、自分で出来るっ。まだ夜中だろう?いいから部屋に戻ってちゃんと寝ろよっ」 暁の口調はどんどん強くなり、しまいには怒鳴り声になった。雅紀はびくっと首をすくめ 「じゃ、じゃあ俺、部屋に戻りますね……」 しょんぼりと肩を落とし、それでも暁の様子を気にしながら立ち上がり、ドアに向かう雅紀の様子に、暁は罪悪感でいっぱいになって 「あ、雅紀っ」 「……はい?」 まだ何か怒られるかと、恐る恐る振り返った雅紀に 「悪い……。怒鳴ることじゃないよな。看病してくれてありがとう。おまえもゆっくり……寝ろよ」 気まずい顔でそう言うと、雅紀はほっとしたように無邪気に微笑んで 「はいっ。秋音さん、おやすみなさい」 嬉しそうにそう言って、ドアの向こうに消えた。 ……最悪だ。俺は……。くそっ 暁は自分に舌打ちして、シーツに拳を叩きつけた。 翌朝、仕事で出掛ける藤堂に合わせて、雅紀は1時間早起きして朝食を用意した。起こす前にダイニングに来て、むっつりと黙りこんで食卓についている暁の前に、恐る恐る皿を置く。 メニューは和定食。ご飯と味噌汁と卵焼きと焼き鮭。藤堂のマンションには、本人は料理しないが調理器具だけは揃っている。 昨日カレーで失敗した時に、献立の段階から自分に相談しろと言っていた暁が、この朝食にどんなダメ出しをするかと、雅紀は内心ひやひやしていた。 「おっ。いいねえ。朝食は和食かい?」 びしっとスーツを着た藤堂が、ネクタイをいじりながら食卓につく。 雅紀は3人分の皿を並べて、お茶碗にご飯をよそうと、暁の隣に腰をおろした。 「藤堂さんは、朝はパンでした?」 「うーん?そうだね、パンを食べる時もあるけど、めんどくさいから大抵はコーヒーだけって感じかな。和食の朝ご飯なんて久しぶりだ。美味そうだな」 藤堂は朝からご機嫌な様子で、箸をとると早速、味噌汁に口をつけた。 「いただきます」 暁も手を合わせて箸をとる。雅紀は緊張した面持ちになり、2人の様子を固唾を飲んで見守った。 「んー美味い。豆腐とわかめかな?出汁がきいてていい味だ」 藤堂の言葉にほっとして、そっと暁の顔を見ると、ばっちり目が合ってドギマギした。 「どう……ですか?」 「美味い。味噌の加減もちょうどいい。おまえも食べてみろ」 暁の言葉に、雅紀はぱあっと明るい表情になり、箸をとると味噌汁に口をつけた。味見はしたつもりだけど、2人の感想にほっと胸を撫で下ろす。 焼き魚も卵焼きも、雅紀は2人の反応を同じように見てから口をつけた。 藤堂は笑いだして 「昨日のがよほど堪えてたんだね。そんなに身構えなくても大丈夫だよ、雅紀」 雅紀は少し頬を赤らめて 「せっかくだからやっぱり、美味しいもの、食べてもらいたいし」 ふいに、暁の手が横から伸びてきて、箸を持つ右手を掴まれた。 「……っ」 「指、切ったのか?」 人差し指に絆創膏を巻いているのを見つけたらしい。雅紀はますます赤くなって俯き 「ちょっと……滑って。でもそんなに深く切ってないですよ。大丈夫」 暁は優しく微笑んで、雅紀の右手をそっと撫で 「あんまり無理はするなよ。おまえが一生懸命やってくれてるのは、ちゃんと分かっているんだ」 雅紀は驚いて暁を見た。 暁の目がすごく優しい。触れてくれる手が、気遣ってくれる声が優しい。 なんだかドキドキする。 2人の様子を眺めていた藤堂が、首をすくめて 「朝から見せつけてくれるなぁ。それじゃあ俺は、独り寂しく仕事に出掛けますか」 藤堂の軽口に、2人は焦ってお互いに目を逸らした。

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