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時の迷路4

……やれやれ。まるでおママゴトのような2人だな……。 マンションを出て、車で事務所に向かいながら、藤堂は今朝の2人の様子を思い出して、苦笑した。 雅紀はもともと暁の恋人だと自覚があるからともかく、問題は都倉の方だ。 ……本人まったく無自覚のようだが、あれは完璧に雅紀に惚れてるだろう。 暁の時の記憶が抜け落ちているから、なんだかややこしいことになっているだけで、2人は完全な両想いだ。と、端から見ていたら思う。 雅紀が恋人だったことを必死に隠したがるので、藤堂は静観することにしているが、思い切って都倉に全て打ち明けてしまった方が、ことはもっと単純な気がするのだが……。 「結局……損な役回りなのか?俺は」 藤堂は、じれったい2人にやきもきしている自分に溜息をつき、くわえた煙草に火をつけた。 藤堂を見送って、雅紀は朝食の後片付けをしていた。暁は部屋には戻らずに、リビングのソファーに座って、藤堂の仕事の資料やパソコンのデータを眺めている。 藤堂にからかわれて、暁はまたむっつりした表情に戻ってしまった。雅紀が皿を洗いながら、そおっと様子をうかがうと、パソコンの画面を難しい顔で睨みつけている。 暁だった時と違って、口数も少なく表情もあまり変わらない彼と、こんな風に2人きりで過ごすのはちょっと緊張する。でも、こういう静かな時間も嫌じゃなかった。 話し方も感情の出し方も、暁と秋音は別人みたいに違う。でもああして気遣ってくれる優しさは、根本的に同じだ。 さっき触れられた時、すごくドキドキした。 ああ、やっぱり俺は、この人が好きなんだなあ……としみじみ思う。 なんだかやたらと幸せそうな顔をして、食器を洗っている雅紀を、暁はパソコンに集中しているフリをしながら、時折ちらちらと見ていた。 昨夜、八つ当たりみたいに雅紀を部屋から追い出してから、大急ぎで自慰の後始末をした。 雅紀をおかずにしてしまった罪悪感で、朝目が覚めてからもしばらく落ち込んでいた。狭い部屋で2人きりになるのは気まずい。雅紀が甲斐甲斐しく世話を焼きにくる前に、急いで身支度してダイニングにきた。 後ろめたさで雅紀の顔を見れず、建築関係の雑誌に夢中になっているフリをした。雅紀は朝食を作るのに必死で、自分のおかしな態度には気づいていないようだった。 キッチンでバタバタと忙しそうにしている雅紀を、そっと観察した。雅紀は難しい顔をしたりほっとしたり焦ったり、面白いくらいころころと表情を変えるから、見ていて飽きない。 綺麗系のちょっと冷たく見えそうな顔立ちなのに、どこか愛嬌を感じて心が和むのは、あの感情に正直なよく変わる表情と、大きな目のせいだろう。 視線に気づいたのか、雅紀がふいにこちらに目線を向け、きょとんとして首を傾げた。 暁はふいっと目を逸らし、平静を装いながら、手元の雑誌に目を落とす。 先に起きてきて、リビングのソファーでパソコンを使っていた藤堂が、そんな暁の行動や表情を訝しげに見ていたことには、不覚にも気づく余裕がなかった。 何をやるにも雅紀はいつも一生懸命だ。彼が頑張って準備した朝食は、どれも丁寧に作られていて、美味しいものを食べて欲しいという、彼の気持ちが伝わってくる味だった。 あの懸命さが愛おしいと思う。姿形だけでなく、心根の綺麗さが、素直な優しさが、すごく好きだ。 ……好き。か……。 昨夜自覚したばかりの、自分の気持ちに戸惑う。 可愛い後輩としての好き、じゃない。 自分のこの想いは……多分……恋だ。 さっき雅紀の細い指に触れた時、ドキリとした。 やっぱり俺はこいつが好きなんだと、改めて自覚させられた。 「秋音さん、はい、コーヒー」 「うわ……っ」 ふいに頭の上から声が降ってきて、暁は驚いて変な声を出してしまった。焦って顔をあげると、雅紀がマグカップを手に持ち、目を丸くして自分を見下ろしている。 「あ……ごめんなさい。びっくりさせちゃいました?コーヒー、いれてきたから…」 「いやっ。いい。ぼーっとしていた俺が悪い。ありがとう。いただくよ」 雅紀はにこっと笑うと、テーブルにマグカップを置いて、暁の隣に腰をおろした。 「夢中になってたのって、藤堂さんのコンペの資料ですか?」 身を乗り出して、パソコンの画面をのぞきこんでくる。 ……っ。そんなに無防備に近づくなって。 意識しすぎて内心かなり焦りつつ、暁は誤魔化す為にますます仏頂面になる。 「あ……ああ」 「面白そうですよね。俺も夕べ見せてもらいましたけど、さすが藤堂さんの…」 「夕べ?」 「え?」 「俺が部屋に戻ってからか?」 「あ……はい。食器を片付けに来たら、リビングに藤堂さんがいて…」 「あの人と2人きりになったのか?」 遮る暁の表情と声が険しい。 「えと……あの……はい」 「まさか口説かれたりしてないだろうな?」 「え……」 心当たりがあるのか、雅紀はバツが悪そうな顔になった。

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