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紡ぐ言の葉。繋ぐ想い2
ー俺の、夢?どんな?
ーああ。おまえ、怒るなよ。……いや、いい。会ってから話す。とにかく、おまえの夢を見て、気づいたんだ。自分の気持ちに
ー勘違いじゃ、ない?俺、男だし。
ー知っている。おまえは男で俺も男だ。でも好きなんだ。おまえを見る度に、ドキドキしていた。顔に出さないようにするのが、大変だったんだぞ
雅紀からの返事が途切れた。一体どんな顔をしているんだろうと、ひどく気になる。
声が聞けず顔も見られない文字だけのやり取りは、もどかしいが利点もある。
面と向かっては照れくさくて言えないようなことも、文字だけだと割とすんなり打ててしまえるようだ。実際、雅紀を目の前にしたら、果たして好きだと言うことも、出来たかどうか怪しい。
……どうしよう。信じられない。秋音さんが俺の夢を?どんな夢なんだろう。俺を見てドキドキしてた?秋音さんが?嘘だろう…
さっきまでの重たく沈んでいた気持ちは、すっかり消えていた。頭痛も治っている。ただ心臓の音だけが煩いくらいだ。
「あ。返事、しないと」
またぽやんとしていたようだ。暁が心配する。雅紀は首を傾げ、何を打とうか悩んで
ー秋音さん。夕飯食べました?
雅紀からの随分間を置いたメッセージを読んで、暁は吹き出した。前の文字と内容がまったく繋がっていない。
ーまだだよ。そういえば、昼も食っていないな。
ーほんと?ごめんなさい。俺のせいだ。
ー気にするな。その気になれば、自分でどうとでも出来たことだ。でも安心したら腹が減ってきたな。車内販売で弁当でも買うよ
ー駅弁。仙台に行く時も食べました。牛肉づくし弁当と特製はらこ飯。どっちも食べたいって、両方半分ずつして
雅紀からの返事に、暁はふ…と笑って
ーそうか。半分ずつか。なあ、雅紀。俺が記憶を失っていた期間のこと。おまえと何をしてどんな話をしていたか。俺は少しずつでも思い出したい。だから、いろいろ教えてくれ
ーはい。俺が知ってること話します。一緒に写真撮りに行ったこととか
ー写真か。そういえば、荷物全部、藤堂さんのマンションに置いてきてしまったな
ー俺、藤堂さんにお礼も言わないで、出てきてしまった
ー雅紀。藤堂さんに電話かけるから、おまえそのままちょっと待ってろ
ーはい。俺も後で電話します
暁はいったんラインを閉じると、通路に出て行って藤堂に電話をかけた。藤堂は雅紀と連絡が取れたことも、自分が雅紀を追って向こうに行くことも、横で電話を聞いていたから知っている。駅前で車を降りる時、笑って肩を叩いて送り出してくれた。
彼には、本当に世話になりっぱなしだ。これからどうするかは、雅紀とよく話し合って決めるとして、まずはお礼と雅紀の様子を伝えなければ。
雅紀は、まだ半分夢を見ているような気分で、今やり取りをしたラインを読み直していた。
秋音が自分を好きだと言う。暁が、じゃない。秋音がだ。
絶対に叶わない想いだと思っていた。暁と恋人になれたのだって夢みたいなのに、秋音とも両想いになれるなんて…。
黙って逃げてきてしまって、もう2度と会えないと思っていたのに。
……あ……。シャツ……。
暁のアパートから持ってきてしまった。雅紀はビニール袋に入れたシャツを見つめた。
……返さないと。っていうか、暁さん、俺のアパートの場所知ってるのかな……。多分知らないよな。自分のアパートの場所も知らないはず。
ここの最寄駅は東京から2回乗り換えて、しかも駅からだいぶ歩かないといけない。怪我をおして無理して仙台から来る暁にはきついだろう。駅前にタクシー乗り場もない。
……俺が駅まで迎えに行けばいいんだ。それに、こっちじゃなくて、暁さんのアパートの方がいいかもしれない。着替え持ってないだろうし。向こうの方が着いた後、そのままゆっくり休めるかも……。
雅紀はクローゼットに行き、小さなバッグに自分の着替えを詰め込んだ。暁のアパートから拝借してしまったシャツも入れる。
……東京駅まで迎えに行った方がいいかな……。とりあえず、ここ出て駅に向かおう。
雅紀はスマホを握り締めバッグを抱えて、自分のアパートを後にした。
藤堂に電話して礼を言い、慌しく新幹線に乗ったことを詫びた。藤堂は苦笑しながらも雅紀の無事を喜んでくれて、荷物は全部送ってやるからアパートの住所を教えろと言ってくれた。
藤堂との電話を終えると、今度は田澤に電話した。田澤も雅紀が見つかったと言うとほっとした様子で、雅紀のアパートの住所や最寄駅を教えてくれた。
『恨まれるかもしれねえな、篠宮くんに。おまえに洗いざらい話しちまったこと』
田澤はしきりにそうボヤいていたが、暁にしてみれば恨むどころか感謝の気持ちしかない。田澤が話してくれたからこそ、雅紀の想いを知り、自分の想いも伝えることが出来た。雅紀だってきっと恨んだりはしない。
暁は田澤に礼を言って電話を切った。
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