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紡ぐ言の葉。繋ぐ想い3

暁はラインの雅紀のページを開いて ―藤堂さんと田澤さんにはお礼の電話をした。今後どうするかは会って話をして決めよう。 少し間を置いて、雅紀からのメッセージが届く。 ―今、俺、○○駅に向かってます。時間が間に合えば、東京駅まで迎えに行くから。 暁は目を見張り、座席に座りかけていたのを慌てて通路に戻ると、雅紀に電話をかけた。 『……はい。雅紀です…』 「今、外か!?」 『あっ……はい、あの、秋音さん迎えに…』 「アパートで待っててくれればよかったんだ」 『でも、俺っ。迎え、行きたいから』 「……大丈夫か?そっち着くの、結構遅いぞ?」 『大丈夫。秋音さんこそ、疲れちゃわないですか?俺、東京駅まで迎え行きますっ』 「いいんだ、○○駅までで。今から出たら早く着きすぎる。いいから部屋に戻っていろ」 電話口の雅紀が口ごもる。言い方がきつかったかと、暁ははっとして気持ちを鎮め 「文句言ってるんじゃないぞ。おまえの気持ちは嬉しいよ」 『……じゃあ……○○駅で、待ちます。俺もちょっと……腹減ってきたし……。駅ビルの店で何か食って、適当に時間潰して…』 「なあ、雅紀。それなら、早瀬さんの店はどうだ?ええと……もじまる、だったか?そこならゆっくり出来るし、俺も安心だ」 『もじ丸……』 「そうだ。病院でおまえ、話していただろう?もじまるのおばさんのだし巻き卵は、美味しくて心があったかくなるんだって。俺も入院中のお礼が言いたかったから、ちょうどいい」 しばしの沈黙の後、雅紀はちょっと拗ねたように呟いた。 『それだと俺、全然迎えになってないし…』 暁はふふ……と笑って 「おまえが今どんな顔しているか、想像がつく。な、雅紀。おまえがまたどこかに消えてしまわないかと、俺は不安なんだよ。だから、もじまるで待っていてくれ。頼む」 暁の言葉に雅紀は数秒黙り込み 『分かりました。俺、もじ丸のおばさんの料理と一緒に、待ってますね…』 「ああ。ありがとう。楽しみにしている」 暁が疲れてはいけないからと、その後の会話はまたラインに切り替えた。 雅紀はもじ丸と暁のアパートがある○○駅に向かった。駅前に出ると暁と出逢ったコンビニが見える。雅紀は立ち止まると暁にラインを送った。 ー今、もじ丸のある○○駅です。これから店に向かうけど、秋音さん○○駅に着いたら教えて。店まで俺が案内するから 少しして暁からラインが来る。 ー分かった。駅についたら連絡するよ。それまで店で何か美味いもの食べて待っていろよ。 ーうん。そうします。 暁に出逢った夜と同じ道を歩く。路地の奥の大きな看板が見えてきた。堂々としたまあるい文字。思わず頬がゆるむ。写真を撮って、暁にラインで送る。 ーもじ丸の看板です。 ーへえ。文字が丸いから、もじ丸なのか。なんだかいいな。和む。 店の引き戸を開けると、いらっしゃいませの声と共に、早瀬のおばさんの優しい顔。 「こんばんは」 「あらまあ。おかえりなさい、雅紀くん」 「……あ……た……ただいま……です」 はにかむ雅紀をおばさんは嬉しそうに手招きして 「私のもう一人の息子は、一緒じゃないの?」 「あ……あの。後からっ。後から来るので」 「そう。じゃ、奥の離れの座敷、また使ってちょうだいな」 おばさんは心得た様子で雅紀の肩をぽんぽん叩くと、奥へ連れていく。雅紀は靴を脱いで座敷にあがると 「あの。おばさん。秋音さんが来たら、だし巻き卵、食べさせたいんです、おばさんの」 「まあご指名ね。嬉しいわ。じゃあそれは後で出すけど……。雅紀くん、お腹空いてるでしょう?何が食べたい?筑前煮ときんぴらごぼうならすぐ出せるわよ。焼き鳥も盛り合わせで持ってきましょうね。それと今日は豆ご飯を炊いたのよ」 美味しそうな料理の数々に、雅紀のお腹がぐーっと鳴った。雅紀は顔を真っ赤にしてお腹を押さえると 「はい。全部、いただきます…」 おばさんは雅紀を座布団に座るように促し 「はいはい、すぐ持ってきましょうね。足を崩して楽にしててちょうだい」 そう言ってにっこり笑うと、部屋を出て行った。 ……もう。さっきまで全然食欲なんかなかっただろっ。現金なんだから、俺の腹っ ぺたんと座り込むと、火照ってしまった頬を両手で押さえる。 数時間前、ここの駅を去る時は悲壮な覚悟をしていたはずなのに、どうしてこうなっているんだろう? また、もじ丸に来れた。 しかも2時間後には暁に会える。 雅紀はスマホを取り出すと、暁にラインを送った。 ーもじ丸に着きました。おばさん、すごく喜んでくれて、筑前煮とか豆ご飯とか、出してくれるって ーそれはまた、美味そうだな。腹いっぱい食っておけよ。俺もそっち着いたら少しもらうからな ー秋音さんには、まず特製だし巻き卵です。おばさんに頼んでおきました。

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