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紡ぐ言の葉。繋ぐ想い5

楽しそうに笑う暁に、雅紀はようやく事態を飲み込めたのか、がばっと身を起こす。 「あっ。俺、駅に迎えにっ」 「大丈夫だ。無事に到着しただろう?」 雅紀はきょろきょろと周りを見てから、身体に掛かっているタオルケットに気づき 「俺……寝ちゃって……た?」 「疲れていたんだろう。おばさんに起こさないでくれと、俺が頼んだんだ」 雅紀はがーん……と音が聞こえそうな顔つきになり 「ごめんなさいっ。俺っ」 暁は雅紀の頭をわしわしと撫でて 「謝るなって。それより、ようやく会えたな。何時間ぶりだ?」 雅紀は凹んだ表情から、今度は目を潤ませた。 「会えた……。秋音さんに」 暁はにっこり笑って両手を広げると 「おいで。雅紀」 「……っ。秋音さん…」 雅紀はおずおずと手を伸ばし、暁に抱きついた。 優しく抱き締められて、心が震えた。こんな風に暁に触れるのは、事故が起きた日以来だった。 暁の大きな身体のぬくもりが嬉しい。 どうしよう。すごく嬉しい。 思った以上に華奢な身体だった。でも、雅紀の身体を抱き締めるこの感触を、俺は知っている。 そうか。俺はこいつを大好きだった。 こうして何度も、この細い身体を抱き締めていた。 「秋音さん。秋音さん。秋音さん」 「突然、消えてしまったりするな。もう会えないのかと思って、胸が潰れそうだった」 「ごめんなさい……っ」 暁は雅紀の頭を優しく撫でて 「何もなくて……おまえが無事で良かったよ。俺はもうこれ以上、大切な人を失いたくないからな」 雅紀は顔をあげ、潤んだ目で暁を見つめた。 暁は照れくさそうに笑って、雅紀の両肩を掴み、顔をのぞき込むようにして、雅紀の唇にそっと唇を押しつける。瞬間、雅紀は目を見開き、ピキンっと固まった。暁はちょっと驚いて唇を離し 「え……おまえ、なんで固まるんだ?もしかして……こういうこと無しの、清い交際だったのか?」 雅紀は真っ赤な顔で、首をぶんぶん横にふり 「ちっ違っ…」 「じゃあどうしてそんなびっくり顔なんだ」 「だって…」 正直、暁からの告白に、まだ半信半疑だった。 暁の「好き」が自分と同じ「LOVE」じゃなくて「LIKE」でもいいと思っていたのだ。 ゲイだと分かっても恋人だったと聞いても、暁が自分を拒絶せずに好きだと言ってくれた。それだけで十分幸せだと思えたから。 「キス……してくれるなんて……俺、思ってなくて…」 言いながら、雅紀の目から涙がポロンと零れ落ちた。暁は慌てて 「なっ……。どうして泣く?」 「ごめんなさっ……嬉しくって、俺っ」 暁はほっとして苦笑いすると 「ばか。嬉しいなら泣くな」 親指の先で零れ落ちた涙を拭うと、優しく頬に触れ、もう一度そっと口づける。 雅紀はきゅっと目を閉じ、今度は柔らかく口づけに応えた。啄むような優しいバードキスの後、暁はもう一度ぎゅっと雅紀の身体を抱き締めてから、また照れたように笑って 「今、おばさん特製のだし巻き卵がくるからな。一緒に食うぞ」 雅紀は長い睫毛に涙の粒をくっつけたまま、幸せそうにはにかんだ。 おばさんが持ってきてくれただし巻き卵を、2人横に並んで食べた。 暁は一口食べて顔を綻ばせ 「なるほど。たしかに美味い。なんだか……懐かしい味だ」 その言葉に雅紀は目を見開き、じーっと暁の顔を見つめた。 「どうした?」 「や……秋音さん……何か思い出したのかな~って…」 期待のこもった雅紀の眼差しに、暁はだし巻き卵をまじまじと眺めて首を傾げ 「うーん……どうだろうな。前に食べたという気はするんだが……。すまん。思い出せない」 雅紀は微笑んで首を横にふると、自分も一口頬張り、ふにゃんと笑顔になった。 「おばさんの料理はどれも美味いけど、これは特別なんです。俺、大好き」 暁はもうひときれ口に入れながら、雅紀の横顔をしげしげ眺めて 「これ食っているおまえの顔も、俺は好きだな。幸せそうで見ていて和む」 「…っ」 雅紀は暁を見て、目が合うと慌てて剃らし、自分の頬を手で押さえ俯いた。 ……どうしよう。ドキドキする。心臓の音聞こえちゃうだろ…っ 「あのっ。筑前煮とか豆ご飯も、少し食べますか?俺、おばさんに頼んでくる…」 言いながら、腰を浮かそうとして、暁に腕を掴まれた。 「いいから座ってろ。駅弁食べてきたから、そんなには食えない」 雅紀はぐいっと引き寄せられて、暁のすぐ横におずおずと座り直した。 「おまえ、もしかして緊張してるのか?」 「えっ。ううん……。んー……はい」 「どっちだ。俺と2人きりだと落ち着かないか?」 「だって、なんかドキドキして…」 「俺もだよ。触ってみろ」 暁に手を掴まれ、胸のところに持っていかれた。薄いシャツ越しに触れる暁の胸は、温かくて…。 「な?ドキドキしているだろう?」 雅紀は頷いて、暁の左胸に耳を寄せた。 「ほんとだ…」

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