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第51章 ふたたびの恋1

雅紀の無邪気な行動に、暁は更にどきっとしながら、雅紀の柔らかい髪を撫でて 「記憶は吹っ飛んでしまっても、おまえを好きだっていう気持ちは、忘れていなかったみたいだ」 雅紀は下からおずおずと暁を見上げ 「そういえば、俺の夢……って……どんな夢だったんです?」 途端に、暁はちょっと焦った顔になった。 雅紀の視線から逃れるように、雅紀の身体を抱き締めて、顔を胸に埋めさせ 「いや……。おまえ……怒るだろう」 「え。俺が怒るような夢?」 「う……そうだな。言ったら怒る。いや、呆れる?かな」 雅紀は暁の腕の中ででもがいて、必死に顔をあげ 「そんなこと言われたら、余計、気になる。どんな夢ですか?」 雅紀の無邪気な大きな目が、また上目遣いに見つめてくる。暁は弱り果てた顔になり 「今……言わないとダメか?」 「え……?」 雅紀はますますきょとんとなった。暁は目を泳がせてから、雅紀の耳元に口を寄せて囁いた。 「アパートに帰ってから、話す」 雅紀はくすぐったそうに首をすくめ、腑に落ちない表情のまま頷いた。 もじ丸のおじさんとおばさんに礼を言ってから、店を出てアパートに向かった。 駅の脇のコンビニの前で、暁はふと立ち止まり 「もじ丸の店の中もだが、ここもだ。俺はこの場所を知っているって感じがする」 雅紀はコンビニの入口を見つめて頷き 「ここ。秋音さんと俺が偶然、再会した場所です。秋音さんは記憶がなくて、俺もまさか本人だなんて思わなかったけど」 暁は納得した顔になり 「なるほどな。だからさっきここを通りかかった時に、妙に気になったのか」 雅紀はその時のことを思い出したのか、くすっと笑って 「道案内してくれって…すっごく強引に連れてかれたんですよ、もじ丸に」 「え……俺に……か?」 「そうです。もじ丸の場所、全然知らないふりして。うわあ。やばい人に絡まれたかも?って、俺、内心ものすごく焦ってました」 暁は眉をひそめ 「随分と乱暴なナンパだな。そんな悪そうなヤツに簡単について行くな」 「やっ……だってそれ、秋音さんだし」 暁はむむむ……と複雑な表情になり 「まあ……そうだな。おまえがそこで俺を振りきって逃げたら、それっきりだったわけか」 「嘘つかれたって分かって、俺すっごく怒ったんです。そしたら、暁さん、土下座して謝ってきて……」 雅紀の話を聞いていると、自分のことを聞かされているとはとても思えない。 早瀬暁という男は、どうやらかなり軽くてお調子者らしい…。 「俺、人から土下座されるのなんか初めてで…」 その時の情景を思い出し、遠い目をして微笑みながら話す雅紀の表情が柔らかくて、それもなんだか妙に癪に障る。 コンビニから駅へと歩き始めた雅紀に、暁は微妙な顔つきのまま黙ってついていった。 駅を通り抜け、駅裏の道を並んで歩く。むっつりと押し黙ってしまった暁が気になるのか、雅紀が不安そうに視線を向けてくる。 「身体、辛くないですか?傷は痛くない?」 過去の自身に嫉妬なんかしている大人気ない自分を、雅紀は純粋な気持ちで気遣ってくれている。暁は情けない自分に舌打ちして、表情を和らげ 「大丈夫だ。たいして疲れていないし、傷は全然痛まないぞ」 「もうすぐ着きますから。暁さんのアパート」 「ああ。そうだ、雅紀。俺はこの道を歩く時、おまえと手を繋いだりしたか?」 「えっ……。や、えーと…」 雅紀の恥ずかしそうな顔に、はい、繋ぎました。と書いてある。暁は手をぐっと差し出し 「おまえも、手を、出せ」 雅紀は立ち止まり、差し出された暁の手を見て顔をあげ、目が合うとすぐ目を伏せた。そのままおずおずと手を出してくる。暁はその手をぎゅっと握り、無言のまま歩き出す。 時刻は深夜。周りには誰もいない。照れているのか暁は黙々と歩いている。 雅紀は繋いでいる手を見つめ、幸せを噛みしめていた。 またこうして、手を繋いで歩けた。 ぶっきらぼうな暁の大きな手から、優しいぬくもりが伝わってくる。 隣を俯いて歩く雅紀の横顔を、ちらっと見てみる。月明かりと外灯に照らし出されるその横顔は、柔らかい微笑みを浮かべていて、幸せそうだ。 遠慮がちに握り返される華奢な手から、優しいぬくもりが伝わってくる。 駅からアパートまでの道のりが、10分ちょっとしか掛からないのが、なんだかすごく残念だった。 アパートの部屋の鍵を開け、先に雅紀を中に入れると鍵を閉めた。ぼんやりとだが、この古ぼけたアパートにも見覚えがあるという気がした。 雅紀が電気をつけた。暁はゆっくりと周りを見回してから中にあがった。 古くて狭くはあるが、キッチンは使い勝手よく物が配置されている。部屋にそぐわない大きなオーブンレンジや、手入れされたキッチン用具を見ると、早瀬暁はどうやらかなり料理が好きな男だったらしい。

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