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ふたたびの恋2
雅紀が襖を開けた。思ったより部屋の中は広い。
「ちょっと部屋の空気、入れ換えますね」
しげしげと部屋中を観察している暁に、雅紀は声をかけると、窓を開けてまわった。
よどんでいた部屋の空気が、夜の冷たい外気に一掃される。
暁は部屋の隅のソファーにどさっと腰をおろした。
朝から気を揉み続け、突然の長距離移動という強行軍だった。さすがにちょっと疲れたかもしれない。
「布団敷くから、横になってください」
雅紀は気遣わしげな顔でそう言って、部屋の奥の襖を開けた。なるほど、そこは全面が押し入れになっていて、布団が収納されている。
「俺も手伝う」
腰を浮かしかけた暁を制して、雅紀はにこっと笑い
「大丈夫。俺一人で出来るから、秋音さんは大人しく待っててください」
頼もしい表情でそう言った割には、よたよたと危なっかしい手つきで布団を引っ張り出し、敷布団から順番に敷いていく。せっかく張り切っている雅紀の気を削ぐのも可哀想で、暁は手を出したいのを我慢して、じっと見守った。
無事に敷き終えてほっとしながら、雅紀は暁に歩み寄り手を差し出す。
「秋音さん、横になって。疲れた顔してるから」
「ああ、ありがとう」
雅紀の手を借り布団に横になる。きちんと洗濯されたシーツが肌に触れて気持ちいい。暁はほうっとため息をつくと
「おまえも横になれよ。疲れただろう」
「うん。俺は後で横に布団敷くから…」
暁は掛け布団を持ち上げて
「いいから、ここに来い」
自分の隣を示して、雅紀を手招きする。雅紀はちょっと目を見張り、
「や、でも、それだと秋音さんが、ゆっくり休めないし」
雅紀はうっすら頬を染めると、そう言って窓を閉めに、逃げて行ってしまった。
……そうか。これは誘ったことに……なるのか……?
暁は変に納得しながら、ぱたぱたと歩きまわって窓を閉めている雅紀の姿を眺めた。
「突然こっちに来てしまったから、明日、病院でみてもらった方がいいですね」
雅紀は窓を閉め終えると、押し入れを開けて、タオルやら暁の着替えやらを取り出しながらそう言う。
「ああ……そうだな。早瀬のおばさんにかかりつけの医者を聞いておけばよかった」
「内科と外科の病院は、俺、さっき帰る前に聞いてます。ただ……仙台の病院の紹介状があるとよかったですよね」
「それは俺が藤堂さんに頼んでみる。それより、なあ、雅紀?」
雅紀はソファーに座り、暁を見て首を傾げた。
「はい?」
「おまえ、もう仙台には戻らないのか?」
雅紀ははっとした顔になり、目を逸らした。
「藤堂さんに聞いた。こっちでやり残したことがあるそうだな。それを終えるまで、藤堂さんの事務所には行けないと」
雅紀は俯いて、ひざの上のタオルをぎゅうぎゅう握りながら
「あー……うん……。そうですね。時間かかることなので、当分向こうには……行けないかも…」
「そうか。じゃあいずれは戻るんだな」
暁の言葉に雅紀は曖昧に微笑んで
「うん……。秋音さんは……どうするんです?藤堂さんの仕事、手伝うんですよね」
「俺もこっちでやるべきことがあるからな。それが全部片付いてからだ」
雅紀は哀しい顔になり
「怪我、ちゃんと治るまでは、動き回っちゃダメです」
「分かってる。まずは体調を戻して体力もつけないとな。当分は大人しく治療に専念するさ。……な、雅紀……おまえのやり残したことって…」
「あっ俺、風呂洗ってきます。秋音さん、風呂のお湯たまるまで、ちょっと寝てください。無理してたら、治る怪我も治んないし」
雅紀は立ち上がると、ぱたぱたと襖の向こうへ消えた。
……話したく……ない、か……。
暁は眉を寄せ、考え込み始めた。藤堂が気にしていたように、どうやら何か厄介なことかもしれない。
割と頑固な雅紀に口を割らせるのは簡単ではないが、どんな内容なのか、早めに探った方がいい気がする。
……明日、田澤さんにも聞いてみるか……。
風呂の掃除をしてお湯をためながら、雅紀はさっきまでのふあふあとした夢心地から、現実に引き戻されて、考え込んでいた。
暁が好きだと言ってくれて、今一緒に居られるのはすごく幸せだ。でも、予定していたより早く、暁がこちらに来てしまった。まだ頭の傷の治療も途中で、体力も落ちている彼が、貴弘のいる関東に来てしまっているのだ。
暁は、当分は怪我の治療と体力回復に専念すると言っているが、貴弘の方がそんな暁に、何もせずにいてくれるかどうか……。
藤堂のマンションならば、関東からは遠くセキュリティも万全だった。
でもこのアパートでは……。
一緒にいても非力な自分では、暁を守りきれない。
実際、仙台では庇おうとして逆に庇われ、暁が大怪我を負うことになった。
同じ失敗は繰り返したくない。暁をどうしても守りたい。
どうしたらいい。自分はどう動けばいい?
……明日、田澤さんに、暁さんのことを相談してみよう……。
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