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ふたたびの恋3※
部屋に戻ると、暁は寝息をたてて眠っていた。横に座って顔をのぞき込んでも、まったく気づく様子がない。自分を気遣ってか、平気な顔をしてくれていたが、やはりかなり疲れていたらしい。
……暁さん……。
急に姿を消した自分を、心配して探してくれた。
今日、暁が自分に言ってくれた言葉を、改めて思い返してみる。
暁はいつだって自分に、欲しい言葉をくれる。記憶が消えても、それは変わらない。
雅紀はそろそろと手を伸ばし、そっと暁の髪の毛に触れ、優しく撫でた。
……側にいたい。この人の側にずっと……。
優しく髪を撫でられる感触に、暁はゆっくりと瞼をあげた。ぼんやりとした視界が焦点を結ぶ。
自分をのぞき込んでいる雅紀の、透き通るような綺麗な顔が見えた。
手を伸ばして雅紀の頭を引き寄せ、その柔らかそうな唇に自分の唇を押し付ける。
雅紀は一瞬ぴくっと身を引きかけたが、すぐに力を抜き、そのまま覆いかぶさってきて、口づけに応え始めた。
「……っん……ふ……ぅ……っ」
唇をわり、舌をさし入れ絡めると、雅紀はふるっと震えて鼻から微かに声をもらした。その色っぽい声に誘われるように、舌をもっと深く絡め吸う。
そっと薄目を開けて雅紀の顔を盗み見る。雅紀は閉じた瞼を震わせ、夢で見た通りのせつなげな表情をしていた。
……ああ……綺麗だな……。
普段見るのとは違う雅紀がいる。こんな表情もするのか……と新鮮な気持ちになるのと同時に、強烈な既視感もあった。この艶っぽい顔を俺は覚えている。
唇の感触もこの声も、微かに感じる甘い匂いも。
「……んう……っん」
雅紀の声に艶がのる。その声を聞いた瞬間、腰にぞくっと甘い痺れが駆け抜けた。
暁は息を荒げ、唇を吸いながら身を起こした。上下を入れかえ、雅紀をシーツに縫いつけるように覆いかぶさる。
「っん……ぁ……きとさ……っ怪我……」
「大丈夫、だ……」
気遣う雅紀に答える自分の声が掠れていた。怪我をしている指をつかないようにしながら、再び唇を奪う。
「……んっ……ぅ……ふ……んっ……ん」
雅紀の甘い吐息は強烈に腰にくる。ずくずくと自分のものが脈うち始めたのを感じた。唇を割ってぬめる舌を絡めとり強く吸い上げると、雅紀はせつなげに鳴いて身体をくねらせた。
……反応しているか?こいつのも
確かめてみたいが、生憎片手が不自由だ。暁は足の膝で雅紀のスラックスの前の辺りをそっと探ってみた。薄手の柔らかい生地越しに、雅紀のものも間違いなく膨らんでいるのが分かった。暁は少しほっとして、今度はちょっと強めに膝頭でぐりぐり押してみた。
「んあっ……んぅ……っ」
雅紀が堪らない声をあげ、仰け反って身体をびくつかせた。暁はすかさず耳元に口を寄せ
「感じるか?」
低い艶のある声で吐息と共に囁かれ、雅紀は震えながらいやいやをする。
「や……っだめ…」
「何が、駄目なんだ」
暁はふっと笑いながら耳に息を吹きかけ、うっすらと染まったうなじに唇を押し付けた。
「あ……っん…」
「その声……いいな。ぐっとくる」
「やっ……んぁ……そこ、で、しゃべらな……ぃで」
舌足らずな雅紀の声が、可愛いのに色っぽくて、堪らなくなる。
もっといろいろ反応を見たいのに、怪我のせいで思ったように動けないのが、ひどくもどかしい。
夢の中の雅紀も妖艶だったが、実際はそれ以上だった。男同士の行為なんて、暁としての記憶がない自分としては、初めてのはずなのだ。もっと戸惑いや躊躇いがあるかと思っていたのに、雅紀の反応がよすぎて可愛くて、止まらなくなりそうだ。
暁はうなじから唇を離し、雅紀の顔をのぞき込むと
「なあ、雅紀。早瀬暁はおまえを抱いていたんだよな?」
「……え……」
「抱いてもいいか?秋音として……おまえを抱いてもいいか?」
「……っ……あきと……さ…」
「たとえこのまま記憶が戻らなくても、暁じゃなくなっても、俺はおまえの恋人でいたい」
雅紀はひゅっと息を飲んだ。既に潤みきっていた目から、大粒の涙が零れ落ちる。
「……俺も、あ……あなたの……恋人で……いたい」
雅紀の答えに、暁はほっとしたように笑って、涙で濡れた雅紀の目元にちゅっと口づけた。
甘い口づけを何度も交わして、すっかりその気になっていたが、お湯が冷めちゃうから、まずはお風呂に入ってくださいと雅紀に言われて、暁はしぶしぶ雅紀の身体を放した。
身体を洗って軽く洗髪もして、温めの湯船に浸かると、強ばっていた全身がじんわりとほぐれて心地よい。ほうっとため息をついて、さっきの雅紀との濃厚なキスを思い出していたら、ふいにドアが開いた。
「秋音さん。大丈夫?俺、洗うの手伝います」
赤い顔をして現れた雅紀は、全裸で腰にタオルを巻いただけの姿で……。暁はどきっとして思わず目を逸らし
「あ……ああ……いや。もう洗ったからいい。そ、それよりおまえも、入れ」
「……うん。じゃあ俺も身体、洗いますね」
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